意識高め150冊の書評本「あなたの代わりに読みました」
本(あなたの代わりに読みました)
文芸評論家の斎藤美奈子さんの書評本で、副題が「政治から文学まで、意識高めの150冊」というものです。休刊した週刊朝日の読書欄に連載された「今週の名言奇言」10年分490冊の中から154冊を筆者が選んで、ジャンル別に掲載しています。
見開き2ページで1冊の本を紹介し右上に「名言奇言」を文中の文章をそのまま引用し、左中段に本の出版社と値段、下段に追加のコメントが書かれています。斎藤さんらしいユーモアを交えたわかりやすい文章で、次々とページをめくりながら読み進むことができます。
副題にあるように文芸評論家ながらも、文学以外の幅広いジャンルからの様々な本をピックアップして紹介しており、内容別に「Ⅰ 現代社会を深堀りすれば」「Ⅱ 文芸書から社会が見える」「Ⅲ 文化と暮らしと芸能と」の3つで構成されています。
連載当初の2013年はまだ東日本大震災の影響がまだ深刻な頃で、そうした関連の本を取り上げています。
ハッピー著「福島第一原発収束作業日記」は、ツイートをまとめた現場からの報告書であり、
政府や東電などの指揮系統が、いかに現場を混乱させたかを糾弾しています。その名言は「今のままじゃ40年後の廃炉とか、絶対に不可能だよ」というもの。
ジェンダー論についても紹介があり、秋山千佳著「東大女子という生き方」では、東大でも根強く残る男尊女卑の現実と、東大女子という外的ブランドのとのギャップに葛藤しながら「学歴の話は絶対位に自分からはしませんでした」との言葉で結んでいます。
「本当は怖い文学の裏側」という項目で紹介された、作家自身の体験を明かした平山瑞穂著「エンタメ小説家の失敗学」では、小説家志望者がデビューできても、本当の地獄はデビュー後に待っているというものです。副題が「売れなければ終わりの修羅の道」が示すようにその名言は「最後に残るのは結果―売れたか売れなかったかだけだ」と結論づけています。
多くの名言が、それぞれの本の筆者の叫びや本音を取り上げたものであり、その本の中身を凝縮したものであるとも言える言葉たちです。私も芥川賞受賞作を中心に何冊が詠んだ本があったので、自己の感想と重ね合わせながら筆者の書評を読んでいきました。
本のタイトルが示すように読者の代わりに筆者が読み、その独自の切り口での本の紹介や書評は、確かにダイジェスト版でありながらも、ネットで流行りの時短紹介サイトとはレベル以上に次元が違う、まさに「意識高め」(勿論悪い意味ではなく)の良質な書評かつガイド本であったと読了後に感じました。