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今年下半期の芥川賞受賞作品2作を読んで

本(貝に続く場所にて・彼岸花が咲く島)

今年下半期の芥川賞受賞作2作品です。共に女性で「貝に続く~」の作者、石沢麻衣さんはドイツ在住のドイツ美術史研究者、一方の「彼岸花が~」の李琴峰さんは台湾出身で母国語でない人物の芥川賞受賞は、確か2作目だと思います。

「貝に続く場所にて」は、ドイツの小都市で美術史を専攻する主人公が東日本大震災で亡くなった友人(幽霊)と再会する物語で、現実と幻想が交錯する展開となっています。美術史専攻の作者の文章は、隠喩を多用しつつきわめて上品な文体であると感じました。
美術を研究する者の絵画的とか視覚的とかいうような文体ではなく、きわめて文学的な表現であると思います。現実と幻想、時間と空間を超越する生活空間、さらには死生観をも淡々と描いています。
淡々とした描写ゆえに最後の遠足に行く場面では、このままフェイドアウトしてしまうラストになるのではと案じていましたが、勿論ラストらしいエンディングシーンが用意されていました。

「彼岸花が咲く島」は、彼岸花が咲く島に流れ着いた少女が、島民との交流を通して島民として生きていくという物語で、上記の作品とは対照的に島の生活や習慣などを織り交ぜながら、メリハリのあるストーリー展開となっています。

沖縄と推測される島の舞台の設定、日本と台湾に中間に位置する島の歴史的な背景や、島民たちの歴史やその歴史を踏まえながらの生活基盤の確立など、島の神事などの催事を女性が司るようになった歴史的背景なども描かれています。

ただ芥川賞ウォッチャーとしては、女性受賞者(決して差別用語ではなくむしろ尊敬の念を持って)への期待感は毎回あります。
川上未映子さんの「乳と卵」の小説自体のキャラとしての存在感や、林紗耶香さんの「コンビニ人間」の鋭敏な自己を投影した人間観察力、さらに今村夏子さんの「むらさきのスカートの女」の卓越したストーリー展開などなどありました。

今回も作品としての鋭角度は、残念ながら上記のような作品にまでは達していないというのが個人的な読後の感想です。
かつて上田岳弘氏の「ニムロッド」を読んだ時に、IT用語が頻出した文章を読みながら、芥川賞もトレンドとの融合の時期に入ったと感じました。純文学とトレンドやエンタメ性など他の要素との融合が、これからも注目される文学賞として新たな存在価値を問われることになると考えます。

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