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直木賞受賞の短編集は一級のエンタメ小説「ツミデミック」❗️(^^)

本(ツミデミック)

今年下期の直木賞受賞作品です。同時に発表される芥川賞は文藝春秋に全文が掲載されるので、毎回買って読んでいますが、直木賞が掲載されるオール読物は全文掲載ではないので、興味がある作品を見つけると。単行本を買って読んでいました。

今回も新聞の紹介記事などで読んで面白そうだと思い、単行本を買って読みましたが、期待以上の作品集でした。内容は6作品からなる短編集で、それぞれ独立した物語ですが、新型コロナウイルスが猛威を振るった時期というのが、全編に共通した背景になっています。

コロナ禍で人々が、どのように生活していったかを記録したいとの想いで作品を書き上げたと筆者は述べていますが、コロナ禍で抑制された閉塞感での生活ぶりを、6作品それぞれにテーマを決めながらストーリーが展開されていきます。ちなみにタイトルの「ツミデミック」はパンデミック×犯罪の意味。

そのテーマには、死んだはずの中学の女友達に偶然再会するミステリータッチのものや、デリバリーのイケメンを追いかけた末の衝撃の結末、死んだ主人公が15年後に実家へ舞い戻って最後に真実を知るサスペンスタッチのもの、金目当てに世話をした近所の老人の正体が明らかになる顛末、中年になって実母の存在を知り、涙ながらにラストを迎えるハートフルなもの、SNSで知り合った自殺願望のグループがバンでドライブをしながら、自殺願望の動機をそれぞれが話した後、最後に起こるどんでん返しなどなど、エンタメ小説として、十分に満足できる秀作だと読了後に感じました。

作者の一穂ミチさんは、ボーイズラブの小説で人気を博し、その後一般文芸に転じたとのことですが、ボーイズラブ作家時代に鍛えられたと推測する物語の構成力とそれを表現する筆力で、一般文芸に転じてもその基礎筆力を生かし、今回のような一級のエンタメ小説が書けたのではないかと思います。

新聞記事のインタビューで、ラーメン屋(ボーイズラブ小説家)が、普通の食堂に転職したようなもので、ラーメン以外にどのような材料で料理を提供できるか、試してみたいと述べていました。
さらに顔出しもNGとのことで、授賞式でもマスクをかけての登場でしたが、会社の人に面が割れてしまったのではとの問いにも、他人の空似で貫き通すとの答えでした。最後は普通のおばちゃんが有名な賞を頂けることもあるので、人生面白いなと結んでいました。

どの作品も良かったですが、5作目の「祝福の歌」の最後は、思わず涙ものだったのを最後付け加えておきます。

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