フィンランドの建築家アルヴァ・アアルトのドキュメンタリー映画(^^)
映画(アアルト)
フィンランドの建築家、アルヴァ・アアルトのドキュメンタリー映画です。近代建築の3大巨匠(コルビュジェ・ライト・ミース)以外でも、建築学科の学生が受ける講義では必ず登場する著名な建築家で、私自身も大学生の頃、初めてその名を知りました。
今回は様々な関係者のインタビューでの証言や、本人のラジオインタビューでの肉声、さらにプライベートな映像も含めて、その生涯を忠実に再現したドキュメンタリー映画となっています。
実は2017年に開催されたフィンランドデザイン展にも行き、アアルトの家具や建築模型などを見ましたが、初期の代表作であるパイミオのサナトリウムの精巧な手描き図面に感心したのを覚えています。
アアルトが特徴的なのは、建築だけでなく椅子などの家具も設計し、そのデザインは北欧フィンランドの厳しい気候や環境などを考慮した、外壁はレンガで内装は木を多用した緩やかな曲線が多いものになっています。そうしたアアルトですが、旅行した南欧イタリアの都市国家によるデザインに影響を受け、その後もその影響力が続いたと紹介されています。
さらに設計活動では妻アイノの協力が欠かせないものであり、その存在がアアルト自身にも大きな影響を与えています。彼女の死後、アアルトは自らのアトリエで働くエリッサと再婚しますが、今回のドキュメンタリー映画では、こうしたプライベートな部分を取り上げて、アアルトのデザインポリシーなど設計やデザイン論を中心に描くのではなく、彼の人生の軌跡を人間関係も含めてメインに捉えています。それは監督が女性ゆえに、そうしたテーマを重要と考えたのかもしれません。
上記のようにフィンランドの自然環境を意識したデザインポリシーは、当時の建築界では映画の中に登場するCIAM(近代建築国際会議)でも、会議をリードしたコルビュジェのモダニズムとは一線を画するものでしたが、晩年の作品にはその影響が見られて、そうした両者の葛藤を伺い知ることができます。晩年はアルコール依存症に苦しんだという描写がありましたが、あるいはそうした葛藤からの現実逃避だったのかもしれません。
建築家は、時代や都市の変貌に対応し、時代に即した作品を創出する責務がありますが、同時に自己の創造の起点であるデザインポリシーもぶれない一貫性を持つ必要もあります。そうした両者のバランス感覚が必要となってきますが、この均衡を上手く維持することがきわめて難しく、社会の要請と自己表現との間での葛藤も当然生じてきます。晩年のアアルトも、そうした葛藤に苦悩した建築家であったのかもしれません。(写真はアアルトのアトリエで、公式サイトより引用しました。)