ムショメシ(刑務所の食事)の実情を書いた本「めざせ!ムショラン三ツ星」
本(めざせ!ムショラン三ツ星)
刑務所の給食(食事)事情を書いた本です。私がこの本を知ったのは新聞の書評欄ではなく、夕刊の一般記事でした。料理好きなので早速読んでみようと本屋へ行きましたが、在庫がなく注文して取り寄せた次第です。それほど新聞で取り上げられながらも、やはり特殊な部類に属する本なのではと思います。
筆者の黒柳桂子さんは、愛知県の岡崎医療刑務所に勤務する管理栄養士(法務技官)である国家公務員で、刑務所での勤務は10年超になります。大学の家政学部を卒業後に管理栄養士となり、学校や病院などの管理栄養士を経験後に、刑務所に転職したとのことです。刑務所への転職は、やはり当初は戸惑いがあったとのことですが、離婚したシングルマザーゆえに家庭の事情だったと最初に述べています。
塀の中の刑務所には、受刑者とそれを監視する刑務官がおり、給食を作る調理場は「炊場(すいじょう)」と呼ばれています。毎日の食事は管理栄養士が献立を作成すると、炊場担当の受刑者が刑務官監視の下に、材料の洗浄から下処理、調理、盛り付けと行い、各居室へと配膳されます。
料理に関しては、初心者もいることから細かいマニュアルが作成されていますが、それでも様々な失敗が起こってしまい、多くの例が紹介されています。一部を挙げると
・魚の煮物の煮汁に片栗粉を入れすぎてしまい、汁がわらび餅状態になってしまった。
・ポテトサラダのゆでたじゃがいもを冷ますのに、水をかけて冷ましてしまった。
・メロン1個を16等分にする時に、全て縦に切って1個がペラペラになってしまった。
(8等分した後は縦ではなく、斜め横に切る。)
また刑務所の給食で重要なのは公平性であり、受刑者1人1人に均等に食事を与えなければならず、ここで問題になったのが八宝菜に入るうずらの卵で、全員に行き渡らないので廃止にしたとのこと。さらに刑務所での1番人気メニューはぜんざいで、それも量が多い「どんぶりぜんざい」とのことですが、塀の中にいると甘い物がほしくなるそうです。
刑務所内では酒や煙草の禁止は勿論、病院食同様に栄養バランスを考えた日々の食事が提供されるため、刑務所の給食は健康を維持する上で理にかなっていると筆者は力説しています。少ない予算でいかに美味しい食事を提供するか、それは管理栄養士としての腕の見せ所でもありますし、受刑者の「ウマかったっス」という言葉が、新たな活力になるのかもしれません。
決してクサイメシではない、創意工夫のムショメシがそこにありました。
(本文中にはいくつかの給食レシピも紹介されており、おから入りドーナツなど実際に作ってみるのも面白いと感じました。)