各地の駅メロ誕生のエピソードを綴った本「駅メロものがたり」
本(駅メロものがたり)(敬称略)(長文失礼します)
全国の駅に流れる発車を知らせるメロディー(駅メロ)について、その採用までのエピソードを紹介した本です。私がこの本を知ったのは筆者の藤澤志穂子さんが新聞の人物欄に紹介された記事であり、これはなかなか興味深いと新書版を買って読んでみました。ちなみに出版は交通新聞社という鉄道や交通専門の新聞・出版社です。
プロローグに「紹介する18の駅は、音楽による地域おこしに力を尽くした人たちのドラマ」と書いてあるように、駅メロ誕生までの経過を取材や参考文献を基に、わかりやすくまとめています。新聞連載など長年の記事をまとめて加筆修正したのが本書であり、筆者の労作ともいえるものです。
新聞記事で紹介された「栄冠は君に輝く」はJR福島駅で流れるものですが、筆者はなぜ甲子園ではなく福島なのかと疑問に思ったそうで、この曲の作曲が福島出身の古関裕而とわかり納得したそうです。
このようにその土地ゆかりの人物に関係ある曲が採用されるケースが多く、かつては唱歌や童謡が多かったものが、最近は歌謡曲など現代の曲が多く採用されて、その親しみやすさから地域住民や旅行者から、多くの支持を集めているとのことです。
最初に登場するJR仙台駅の「青葉城恋歌」は、ヒットする前から流し続けていた曲ですが、駅長を始めとした地元民の地道で熱心な応援があったとその背景を説明しています。
JR茅ヶ崎駅の「希望の轍」は同市出身桑田佳祐のサザンオールスターズの名曲ですが、幼い頃茅ケ崎で過ごした加山雄三の「海その愛」も流れています。
JRと京急電鉄川崎駅の「上を向いて歩こう」は、同市出身の坂本九の代表作ですが、世界的にヒットした名曲であり、急増するインバウンドを意識した駅メロとしても対応ができるのではという指摘でした。
岩手県JR水沢江刺駅は旧江刺市出身の大瀧詠一の「君は天然色」で、数ある曲の中から今でもCMなどで流れるエバーグリーンともいえるこの曲を選んだとのことです。
大分県JR津久見駅は同市出身の伊勢正三作詞作曲の「なごり雪」は、21歳の時に作られたもので、曲の原風景がこの津久見駅にあったと語っています。また市内には民家を改造した「伊勢正ミュージアム」があり、ファンの聖地となっています。
他にも大阪市JR桃谷駅の河島英五の「酒と泪と男と女」、西武池袋線大泉学園駅のゴダイゴの「銀河鉄道999」などがあります。
プロローグに書いたように、駅メロ誕生までには地元の人たちの郷土への限りない愛着があり、それゆえに音楽による地域おこしの一環としての成果ではなかったかと思います。実現までにはJRなど各関係機関との交渉などがあったということですが、そうした中でもその熱意で乗り越え、実現にこぎつけたのではと感じました。