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いちばん気持ちよさそうな顔して踊ってる
思わず見とれてしまう『涙のTAKE A CHANE』。歌もいいけどウェーブの4人と踊るブレイクダンスがすごい。アザを作りながらの猛練習、新しい魅力を自ら演出して曲は大ヒット。 「'85スターファイル」 shueisha 1985
映画『フラッシュ・ダンス』のブレイクダンスやマイケル・ジャクソンのMV『スリラー』に影響を受けまくっていた慎吾ちゃん。自身のコンサートステージに取り入れるべく、毎晩ビデオを見て踊りの研究をしていました。
MJのダンスは1984年春のコンサートで披露。この公演ではあまり歌は歌わず、踊りとコントが中心のパフォーマンスでした。
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1984年春 歌わないコンサート
一方、ブレイクダンス。部屋で独り練習を重ねてはいるものの、その踊りをステージでどう見せるか模索していました。
そんな時テレビで見たのが、1983年グラミー賞授賞式のハービー・ハンコックのステージング。
「ハービー・ハンコックの『ロック・イット』!心底ブッとんじまったぜ。そーさ、そーなんだっ。ステージってのァ、こうでなきゃ! “キメた。夏のコンサートはこれにキメたぞ。”」 shueisha 1985
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1984年夏 ブレイクダンスツアー
早速バックで踊ってくれる人を求めて新宿のディスコへ。フロアは人でいっぱい、上手い人もたくさんいる。どうやって選んだらいいんだろう…。
そこで慎吾ちゃんが決め手としたこと。
「踊っているときの顔見て、いちばん気持ちよさそうにしているヤツを選んだんだ。」
まず二人を選び、その二人がさらに二人を紹介してくれました。この四人が後にテレビで大活躍するバックダンサー「ウェーブ/WAVE」です。
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コンサート用ダンサー ウェーブ magazine h 1984
五人で猛練習を重ね、全国各地の慎吾ちゃんファンにブレイクダンスを披露。おかげでツアーは大成功。その終盤、ウェーブのひとりが言いました。「このツアーが終わったら、僕はまた元の仕事に戻ることになるのかな…」
それを聞いた慎吾ちゃんは思いました。彼らと一緒にもっともっとブレイクダンスを追求したいと。
ツアーが終わっても練習を続けるため、四人と共にお金が無くなるまでディスコに通い踊りまくる日々。そこでバトルすることもありました。
「はげしく、そして充実した練習で、ボクはガンガン上達した。ところがあんまりディスコに行きすぎて、気が付くとボクらはみんな貧乏になっていたぜ。」
そんなある日、番組側から新曲リリースの計画が告げられました。
「ボクの新曲、ほんとはバラードに決まりかけてた。ボクは初めて大将にさからった。“やりたいことがあるんです、やらせてください”って、みんなといっしょに大将の前に行って、ブレイクダンスを見せたんだ。」
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いっしょに大将に見せた shueisha 1985
「以前、“踊って歌うの10年早い” って言われていたし、大将がなんて言うかなって、正直言って不安だったよ。そしたら、ひとこと。“スゴイねー、慎吾ちゃん。やってみたら”」
そして生まれたのが『涙のtake a chance』
「空いているテレビ局の部屋を借りたり、終了時間をすぎたディスコでフリの練習。ボクとウェーブの連中で、あのフリは全部決めたの。今度の曲がヒットしたのって、ほんとボクだけの力じゃなくて、ウェーブが応援してくれたおかげだと思ってるよ。」
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ボクとウェーブで shueisha 1985
ウェーブの協力ももちろん大きかったけど、やはり慎吾ちゃんの驚異的な行動力が全てを変えたと思うのです。
「 いちばん気持ちよさそうな顔して踊っている人を 」
ここに私は慎吾ちゃんのダンスに対する精神を、そして日本にブレイクダンスを広めることに成功した要因を見出します。
「練習は、もちろん傷だらけ。みんななんどかヒザとか背骨とか痛めてる。だけどそれでも楽しいのは、やっぱ、根っから好きなんだろうね、踊るのが。」 shueisha 1985