51:残像に口紅を
サンクチュアリ -聖域-
このドラマが圧倒的に面白いことから全ては始まった。
https://www.netflix.com/title/81144910
2023年上半期のドラマ・映画・アニメ・ゲームにおいて、この作品以上に興奮して、笑って泣いた作品はあっただろうか。誰かが言った「相撲番スラムダンク」。色々考えたがこの例えが一番しっくりくる。
ただ、今回はこの作品について書きたいのではない。
この作品を観ているときに、興奮しすぎて洗濯機でiPhoneを洗濯してることに気が付かなかったのだ。
何気ない天気の良い休日、枕カバーとシーツでも洗おうとひっぺがしたのが運の尽き、ベット上のiPhoneに気が付かなかった。
だってしょうがない、相撲の試合シーンが最高に面白かったのだもん。
そりゃ洗濯物がいつもより「ガオンガオン」と唸っても、面白さを優先してしまうものだ。
観終わった焦燥感、次回作が早く観たいと思う期待感の間で、iPhoneを探す。
だが探せば探せど見つからない、狭い部屋なのに。
恐る恐る洗濯物のシーツを持ち上げると、真っ暗な画面に白いりんごマークが小刻みに震えている。
こんな現象があるのかとまた一つ勉強になったが、いくら動かしても2度と動くことはなかった。SIMカードを抜いて古い機種に入れ込み、なんとかカードは生きてることは確認してからしばらく生活することにした。
古い機種は、画面がパキパキに割れている。
たが、それでいい。
僕はiPhoneケースを付けない、フィルムも貼らない。それは故ジョブズが嫌がっていたという記事を読んだことがあるからだ。
同じモノづくりに携わる人間として言い訳と捉えられると辛いのだが、限られた予算や納期、量産への安全基準など色んなことを乗り越えて最高なものを届けたいと思っている。
だからこそ、作り手の想いは汲んであげたいのだ。
おかげで毎年のようにiPhoneを買ってるのは内緒だが、剥がれた塗装や凹んだ角、それも含めてのデザインだ。
話が逸れたが、そのバキバキのiPhoneを使っていて1週間後、画面左3割と、上側2割が急に押せなくなったのだ。
押せないと困るのは当たり前だが、より実感した。
まず左側が押せないことで、ブラウザバックできないので進むしか出来ない。左側に入れていた銀行のアプリが押せないので、家賃の振り込みが出来ない。PayPayで支払いができないので、急な現金払い。とにかく生活に支障が出るのだ。
電源を入れ直せば直るかもと思ったのだが、画面上側が押せないので電源を切ることすら出来ない。
1番困ったのが、LINEだ。
メッセージのやりとりで、
あ行、た行、ま行、abcへの変換 これらが押すことが出来ない。
暗黒、坦々麺、マングースと打つことが出来ないと生活出来ないので考えた結果、ネットの記事から単語を探してコピペすることにした。
色んな記事やまとめに飛んで、欲しい単語やひらがなを拾っていく。
新聞の見出しを切り出して、犯行予告する気分になりつつ、直近で必要な返信は全て行なった。
不便も楽しんでいたのだが、左側の使えない範囲がどんどん侵食され、画面の真ん中ら辺の文字も反応が薄くなってきた。
言葉が、減る。
そんな話があったと思って思い出したのが、このnoteのタイトルの筒井康隆が書いた「残像に花束を」という紛失や譲渡で3回買った本だ。
「あ」「す」「ぬ」など、使える言葉が減った時点で話が始まり、物語が進むにつれ更に減っていく実験的な小説なのだが、まさにこの世界観を体験することが奇しくもできてしまったのだ。
想いを紡ぐ為に人類が生み出したのが言葉だが、それを使えなくなるとiPhoneはただの光る板でしかない。
この画面の一部が反応しなくなってから、数時間も経つと、何にも画面が反応しなくなった。
電源も切ることも出来ないし、バックアップも取れない。アラームも解除できないのは困った。
生活に支障がきたしてしまう為、深夜にネットで購入して、翌日開店と同時に受け取ることにした。
何故か早朝に起きてしまい、ふとiPhoneを触る。寝れば直ってることなんてないのが現実だ。早く起きた朝をどうにかしたいので、カセットテーププレイヤーを片手に早朝に散歩することにした。
どこか憧れていたiPhoneからの脱却と、聴いてないカセットテープの消化。
ポケットに入れると重いので、片手に持って有線のケーブルで待ちを練り歩く。信号で止まった際に、子供達には新しいゲームでも持ってるかの目で見られる。そうだよね、見たことないよね。
よく歩く道のりを、更に練り歩く。
不思議と、普段と違う感覚になった。
ある程度歩くとテープを両面聴いてしまったので、イヤホンを外して公園を歩くことにした。
犬の鳴き声
ラジオ体操に精を出すおじさま
ランニングするヤングマン
色んな音がそこにはあった。
帰社する際に、まだオフィス内なのにイヤホンをつける僕は、世界の音を拒絶していたのだ。
なにより、匂いを感じた。
音と景色があると、より敏感になるのか。
そんな発見がある最高な清々しい朝を迎えて、
最寄りのApple Storeに向かった。
開店5分前にStoreに着き、要件を伝えて開店で店前で待つことにした。事前にネットで買うと、URLがメールで届いてスキャンすることでスムーズに受け取ることが出来る。便利だね。
いざ開店時間になると、男性のマネージャーらしきひとがタンブラーとiPadを抱えて肩で風を切って降りてきた。
なんか鼻に付くと思いつつ、彼はこう言った。
「ステファニー、ジェシー!カモン!!!」
大声でスタッフを呼んだのだ。
朝から元気だな、と思いつつ
入り口付近でスタッフが集まってきた。
朝礼でもするのかなと思い見ていると、マネージャーが
「Apple Store〇〇店オープンまで5,4,3,2,1 オープンー!!!!!ウェルカムー!!!!」
周りのスタッフもニッコニコである。
このオープニングって新しいアップル製品だけじゃないんだという衝撃と、拍手を求められた感覚に苛まれて僕は拍手した。
朝の爽やかさかは
どこに行った。
いや、テンションが合わなかったのは僕のせい。
改めて陽気な感じが苦手なんだと思う。
次回からはフルブーストでリンゴを片手で潰しながら入店したいと思います🍎👋