未来館ビジョナリーキャンプをふりかえる 最終回「未来へのビジョン」
未来館ビジョナリーキャンプ
未来のビジョンを描き、それを実現するアイデアを考え、周囲を巻き込みながら自らも行動できる人=ビジョナリーとして集った15~25歳の若者たち。「2030年に、私たちはどうやって気持ちや考えを伝えあっていたいか」を語り合うイベント「未来館ビジョナリーキャンプ」も、ついにファイナルプレゼンテーションを残すのみとなりました。
ビジョナリーたちはどんな未来社会をめざし、どんな方法でそこに向かいたいと考えているのでしょうか。
ビジョナリーたちの成長をお見逃しなく!
12チームの挑戦
いくつものセッションで対話を重ね、めざしたい未来社会を描き、その実現に向かうアイデアを考えてきたビジョナリーたち。
中間発表後の話し合いによって、さらに2つのチームが誕生しました。
刻一刻と、ファイナルプレゼンテーションの開始時刻が近づいてきます。
発表順が、くじ引きで決まりました。
未来館ビジョナリーキャンプのゴール
このキャンプのゴールは、参加した若者たちが、"一人前の"ビジョナリー" として、スタートラインに立つことです。
その一方で、ビジョナリーキャンプは、コンテストでもあります。
ファイナルプレゼンテーションで優秀賞に選ばれた3チームは、研究者やクリエイターの助力を受け、日本科学未来館でビジョンやアイデアを展示にすることができます。
パフォーマンスは9分間
発表は3分、質疑応答が6分です。
優秀賞を選ぶチェックポイントは3つ。
・めざしたい未来社会のビジョンはクリアであるか
・それを実現するアイデアは理論的か、また、魅力的か
・まずどんな人にアプローチし、どんな社会的インパクトを起こすのか。
審査員を務めるのは、ビジョナリーたちとセッションを重ねてきた研究者、クリエイター、データ・アナリスト、そして未来館スタッフです。
ビジョンやアイデアに磨きをかけてきたビジョナリーたち。審査員の心を、動かすことができるでしょうか。
嵐の前の大嵐
発表の直前、会場は直前リハーサルで大忙しです。それぞれのチームは自分たちのプレゼンテーションをどのように展開するのか、使用する機器、照明、音響などを細かく設定します。
すべてのチームのリハーサルが完了した、その10分後、会場にビジョナリーたちが入場する時刻となりました。
どの表情にも、緊張と、そして社会に自分たちの思いを放つ覚悟が見えます。
まったなし!
ファイナルプレゼンテーションのはじまりです!
あなたの挑戦、A.I.がサポートします
結果を心配しすぎて踏み出せない、なんてこと、ありませんか?
もしも自分の行動パターンを学習したA.I.が、そこにある選択肢とあなたのパーソナリティの"相性"を分析してくれたら、
あなたは堅実な選択を望みますか?
たとえ失敗する可能性が高くても、自分の気持ちにあった選択肢を選びますか?
チーム「優柔不団」がめざすのは、「挑戦しやすい社会」。
それを実現するために、A.I.が一人ひとりの決断を後押しするしくみを提案しました。
石橋やつり橋を渡るまえに、あなたにどの程度向いているルートなのかを判断してくれるわけです。優柔不断な人が、自分で判断できない場合はどうするかというと。
「気持ちが揺れ動くとき、A.I.に決断をサポートしてもらったり、判断をゆだねたりすることもでます。ぶっちゃけ〇〇したい!という、本人の感情を優先して選択を後押しする"悪魔のささやきモード"や、意外性に期待して無作為に選択してくれる"ランダムモード"を使って選択肢を絞ることもできる、そんなサポートがあってもいいと思っています」
審査員:
「選択肢がかえって増えることにならない?」
チーム:
「これだけで選択がしやすくなるわけではないと考えています。一回の決断にたどりつくまでの時間を短縮し、その決断の結果がどんなものであったかを後で振り返る、その体験を繰り返すことで、もっと大きな選択への助けになると思っています」
それ!私の言いたいことはそれ!
チーム「ピエール本間」も、A.I.がサポートしてくれるコミュニケーションスタイルを提案しました。こちらのチームがめざしたのは、他人とのコミュニケーションの最適化。
異分野、異文化といった、"当たり前なこと" が異なっている人間どうしのコミュニケーションでありがちな、
「あ~伝わってな~い」、「あ~ズレてる~」
な場面で、より効率的に互いの言いたいことを理解しあうためのアイデアです。
認識のズレを修正してくれるのは、パーソナルAI(以降、PAIと表記)。PAIは使い手にとって臓器のような存在で、相手に合わせて最適な伝え方の形を示し、かつ、インターネット上から関係ある情報を付け加えてくれます。さらに、相手の知りたいことと、こちらの伝えている情報のズレを指摘したり、修正したりもしてくれます。
審査員:
「コミュニケーションの何を最適化したいの? 人間のコミュニケーションはもういらないってこと?」
チーム:
「どの部分が共通していて、どの部分が大きく異なっていて、どの部分なら許容しあえそうか。それをクリアにしていくためのツールです」
A.I.に手伝ってもらって、より早く決断したり、より正確に伝えたりできる未来社会を描いた2チーム。もしA.I.が行動パターンのデータから相性のいいパートナーをみつけてくれたり、会話中に図表入りのスピーチ原稿まで表示してくれたら、異業種間のコラボレーションや、国際会議のなんちゃら宣言をまとめるのも、今より楽になるかもしれません。その一方で、それが実現したとき、私たちの脳は、コミュニケーションにおいてどんな役割りを担うのでしょうか?
迷ったり、誤解したりすることのない効率の良さか。
それとも試行錯誤を重ねてやっとわかりあえた時のうれしさか。
あなたはどちらを重視しますか?
相手の気持ち、見えたほうがいい?
チーム「ノーミソーズ」が大切にしたのは"共感"です。
A.I.は最適解を示せても、共感することはできない!
そう考えたチームは、会話に参加する人の心理状態を身体的な反応を測定することで数値化し、目の前の人が、その発言や状況に対してどれくらい共感しているかを見えるようにするデバイスを提案しました。共感の可視化によって、対話や議論が活性化するのではないかと考えたのです。
審査員:
「共感を確かめ合うことって、今でもそんなに難しくないよ。〇か✖を紙に書いて掲げるだけでもできるよね。実際に試してみて、その次に、人はどんな気持ちになり、どんな行動をとるかを考えてごらん」
別の審査員:
「全体の中から、個別的な関係性をみつけだす、例えば、キミとボク、僕たち仲良くなれそうだね!という可能性を見つけ出せたら面白いね」
Someone may be left behind...
インクルーシブ・コミュニケーションって何だろう
効率重視に向かいがちなコミュニケーション場面に「ちょっと待って!」と声を上げるのはチーム「SKY」とチーム「BMIが低い」。
チーム「SKY」は認知症を発症した方々が、そして、チーム「BMIが低い」は言葉や表情の微妙な意図を読み取るのが苦手な方々が、安心して会話に参加できる社会をめざし、アイデアを考えました。
コミュニケーションの資源"記憶"を管理する!
チーム「SKY」が提案したのはARを使ったウェアラブルサポートシステムMemoRASです。
MemoRASは、認知症患者が自立した生活を送ることをサポートする眼鏡型の記憶補助装置。スケジュールのリマインドはもちろん、画像解析による顔認証と、過去の会話記録と視野映像のリプレイを合わせて、「この人だれだっけ?」「あのときそんなこと言ったっけ?」問題を解決します。
"これ、オレも使いたい!"(筆者、心の声)
・・・これがあればダブルブッキングという修羅場が消滅するじゃないか!
・・・これがあれば、過去の失言・失態場面アーカイブから判断して似たような状況になったときに「失言警報!こんなこと言ったらだめダメ」をリアルタイムでリマインドしてもらえるじゃーないか!
"ほ、ほしい。。。"
そんな私の妄想は質疑応答の真剣なやりとりでかき消されました。
審査員:
「当事者が本当に必要としているものは何か、たくさんの情報を提供することが本当に救いになるのか、チームで考えてほしい」
別の審査員:
「コレつけていたら認知症だってわかっちゃうよね。私だったら恥ずかしいって思うけど」
チーム:
「支える人、支えられる人が明確になっていいのではないかと考えています」
また別の審査員:
「いまメガネをかけている人が差別されることはないと思う。ファッションとして身に着ける当たり前のものにしてしまえば、周囲も違和感なく接することができるんじゃないかな」
一つのアイデアに対して肩書や年齢に関係なく意見を交わしあう、これがビジョナリーキャンプなのだと実感できる場面でした。
表情をデザインする!
チーム「BMIが低い」が提案したのは、表情をデザインして伝えるテクノロジー。といっても顔を変形させるチカラ技ではありません。会話する両者が、クラウドのようなバーチャル空間で、デジタル信号化された表情を"加工"してから送りあうシステムです。
相手の脳に届くのは操作された自分の表情。笑顔を見せたいときは実際よりニコやかな顔のイメージが、反対に疲れた表情を見せたくないときは、顔色や目の下のクマが調節された画像が相手の脳に届くわけです。いわば、表情信号をDJのように操作して互いの脳に送りあうコミュニケーションです。相貌失認症※1 のように、表情をつくれない人、読み取れない人が、会話に参加できるのではないかとチームは考えました。
※1 相貌失認症:
顔を見てもその人が誰なのか、認識しにくくなる、脳の障害。うまれつきの場合と、事故などによって脳が損傷を受けて、顔を識別する領域の働きが低下することによって起こる。根本的な治療方法が確立されていない。
審査員のコメント:
「SNSはすでにそうなっていているね。LINEもTwitterも、顔は見えていないのに、絵文字をくっつけてあたかも顔が見えるコミュニケーションだと感じあっている。"こんなコミュニケーションができる" と同時に、"こんなコミュニケーションになってしまうかもしれない"。という視点も考えながらこのアイデアを活かしてほしい」
「ありがとう」の伝えかた
読者の皆さんの中には、エレベーターのドアを開いて待っていてもらったおかげで遅刻をまぬかれた、なんて経験をお持ちの方、いらっしゃいませんか?
あるいは、花束で、言葉では伝えられない気持ちを渡したり、受け取ったりしたこと、ありませんか?
「ありがとう」を言葉にできないとき、
「ありがとう」を言葉だけでは伝えきれないとき、
そんなときに、気持ちを伝えるアイデアを考えたチームが2つありました。
空間を満たす「ありがとう」
チーム「39」が提案したアイデアは、「ありがとう」を表現したココロボタン。
ココロボタンが活躍する場所はエレベーター。「開く」ボタンが長押しされたときにココロボタンが現れ、後から乗った人がココロボタンを押すと、桃色の照明や音声、におい等の特殊効果(季節や場所に合わせたバリエーションあり)が空間に出現します。当人どうしはもちろん、その場に居合わせた人は"ありがとう"の気持ちが伝わる場面を視覚、聴覚、嗅覚、などの感覚で共有できるわけです。
チームはココロボタンを使って、"ありがとう!を言いやすい社会"をめざします。
審査員:
「いいね!のように自分評価の可視化につながる恐れは?」
チーム:
「特殊効果は短時間で消え、数字がスコアとして蓄積されたりするわけではないので、自己評価にはつながらないと考えています」
審査員:
「エレベーター以外の日常場面も適用できるようにしてもいいね」
別の審査員:
「シンガポールのチャンギ国際空港では、利用者がトイレの快適さを評価し、それが空港の管理システムにフィードバックされている」
別の審査員:
「誰がココロボタンを押したか分からないようにする"匿名性"も考える必要があるかもしれないね」
私と誰かの「ありがとう」
チーム「クロワッサン」が提案したのは「ありがとう」の集め場。
ありがとうをイメージしてつくった花束を渡したとき、感謝の気持ちが相手に伝わったと実感できた!、メンバーのそんな経験からうまれたアイデアです。
「ありがとうの集め場」では、そこにある端末にプロフィールを入力し、自分なりの"ありがとう"を、映像や音声(もちろんダンスも可)で表現し、データとして残します。
使う言語が異なる人でも、言葉を話すのが難しい人でも、自分なりの、"ありがとう" を表現することができ、そこにアクセスした人は、ありがとうの様々な伝え方にふれることができるのです。
音韻で表せば同じ "Arigatou" でも、音や動きで表現したり、物を使って表現すれば、人の数だけ、感謝の気持ちの表し方がある。チームはそう考えました。
いろんな "ありがとう" を共有できる「ありがとうの集め場」。その先にあるのは、誰かのありがとうに、誰もが気づける、そんな社会です。
審査員:
今年、来年これをやるのはとっても魅力的だと思うけど、その先、2030年にはいったい何があるのかな?
チーム:
「私たちは今、見たくないものは見なくていい社会に向かっていると思う。自分の好きなものだけでつくりあげた世界は、自分の見方、感じ方しかそこにない。だからとっても狭い。本当の世界はもっと広いのに。そのことに気づけなくなってしまう前に、何でも機械に任せてしまう前に、2030年にこれをやる意味がある、私たちはそう思っています」
審査員:
「弱ってきたものを鍛えなおす。その鍛錬が、結果的に人と人を結びつける、そう解釈していいのかな?」
チーム:
「はい、その通りです」
意識する、しないに関わらず、私たちのふるまいは、それ自体がメディアとなって気持ちを伝えてしまいます。
「ありがとう」を上手に伝えることで、人と人の間の距離が離れすぎないようにできるのかもしれない。
そんなことを考えさせられた発表でした。
見えない絆をつなぐもの
家族。
コミュニケーションの相手として、多くの人にとって大切な存在だったり、ときに悩みの種になったりします。
空間的に離れていることで、あるいは、時間的に離れていることで、
確かめにくくなった家族のきずなを守りたい。
そう考えたチームが2つありました。
オーダーメイド・メディア!
チーム「家族」は距離的に離れた家族の絆に注目しました。
人と人の関係が多様になった現代、「家族」を感じることが難しくなっているのではないか。
そう考えたチームは、足音や香りなど、感じたい相手の「雰囲気データ」を、感じたいと思ったときに再生する、というアイデアを提案しました。
審査員:
「家族って、いいときばかりじゃないよね。関係が悪化しているときのことは考えた?」
チーム:
「私たちが目指したのは、ある意味、都合のいいメディアです。干渉しあうのではなく、こちらが思い出したいときに、データを再生して、大切な人のことを思い出す。ほどほどの距離で関係を維持する、というスタイルを認め合うことも、これからは必要じゃないかなと思います」
別の審査員:
「家族と向き合うことは、人間の弱いところを受け入れること。社会全体の寛容性につながるかもしれない。家族の向こう側にある社会全体への波及効果についても考えてごらん」
親というライセンス
チーム「葛藤」は、仕事や様々な事情で子供と過ごす時間が少なくなってしまう親、とくに母親の気持ちに寄り添いました。
そばにいられないことで子どもとの精神的な絆が深まらず、自分は親として失格なのではないか、そう感じてしまう状況に立たされた親が、自分の存在意義を感じられる方法はないだろうか。
チームが考え出したアイデアは、
5歳児ロボット!
家事や育児を「ある程度は」手伝ってくれるけど、親ほどの能力はなく、育児を任せきることはできないロボット。おまけに見た目も5歳児のような外見。子どもからみても、親より劣っているように見えます。5歳児ロボットが完璧に家事や育児をこなせないことで、子どもが親を頼る場面がうまれ、親も自分の必要性を実感できるというわけです。
審査員:
「なんで5歳児に設定したの?」
チーム:「5歳は親が言うこともある程度理解できるし、自分で思いついたことを実行して、失敗もする時期です。手伝いを任せる親も、5歳児には完璧を期待できないから、母親にしてみたら、「手伝ってもらえる」という現実的な恩恵がある一方で、"完璧にはこなせないだろうから私が出ていく場面がある" ことにも納得できる。自分の必要性を自分で感じることもできると思います」
審査員:
「子供が5歳になったら、5歳児ロボットはどこへいくのかな?」
チーム:
「お別れの場面は、それぞれの家庭で決めて、それぞれの家庭で経験してほしいんです」
2030年には、家族のカタチは今以上に多様化しているかもしれません。そのころ、私たちは互いの絆をつなぐために、どんな技術を、どんなふうに使っているのでしょうか。
コミュニケーションの可能性を広げる場所
コミュニケーション活動では、私たちはプレイヤーにあたります。コミュニケーションの舞台となる "場所" から、プレイヤーである私たちのコミュニケーションに働きかけようとするチームが3つありました。
教室のコミュニケーションが学びを変える!
「私はどんな学校に行きたいんだろう」という気持ちを深く掘り下げ、2030年の学びのデザインに挑戦したのは、チーム「山口」。かつて学校でのコミュニケーションを怖いと感じ、「苦登校」に陥った彼女が変えたいと思ったのは、教育システムでもなく、法律でもなく、教室。
彼女がめざすのは、自由なコミュニケーションを通して生徒が自分の好きなこと、得意なことを教室で見つけ、それを伸ばし、社会に出ていくこと。それを実現するためには、生徒と教師が向かい合う場所ではなく、一人ひとりの生徒が自分のスタイルで観察したり、分析したり、表現したり、それをシェアできる教室が必要だと考えました。
提案したのは、シアター型の教室。壁面や空間全体を使って映像を写し、音を響かせたりできます。日本の教室と外国の教室をつないで、その国の生徒たちと言語を学んだり、自分や他人の所作を様々な角度から見て楽器やスポーツの練習をします。
教室を"体験できる場所"にすることで、教えてもらう場所"から"学ぶ場所"にする、彼女はそう考えたのです。
審査員:
「学校だけでなく、部屋でも展開できるシステムにしたら、家はひきこもる場所ではなく、自分のスタイルで他者とつながるための空間になるかもしれないね」
※キャンプ期間中、「40代~60代の引きこもりが増加している」というニュースが話題となり、審査員から上記のコメントが寄せられました。
(参照:内閣府 平成30年度生活状況に関する調査報告書)
コミュニケーションの不完全さを体験できる場所
チーム「パー」は、コミュニケーションとは本来、不完全なものであると考えています。
2030年には、今以上にコミュニケーションを支える様々なデバイスやメディアがあふれていると予想したチームは、一人ひとりが自分のコミュニケーションスタイルをデザインできる未来社会を描きました。そこでは、人々はデバイスやメディアに高性能を求めるのではなく、それぞれの長所や短所を理解した上で使いわけています。
「自分にピッタリなもの」を選択するには、様々なメディアやデバイスを使い比べる体験が必要だ!と考えたチームは、こんなアイデアを提案しました。
2つの部屋。入場者は分かれてそれぞれの部屋に入り、そこにある様々なメディアでもう一方の部屋にいる人と意思の疎通を図ります。文字や音声、映像、VRと、コミュニケーションの方法を変化させていきながら、伝わり方の違いを体験します。
次々と出現する新しいメディアを、自分はどんなふうに使いわけて、気持ちや考えを伝えていきたいか、それを一人ひとりが考える。そのきっかけを与えてくれる部屋、というわけです。
審査員:
「伝わっていないのに、伝わったと思っていることに気づける場所やしかけがあったらオモシロイね。その通信手段がなくなったときに何を感じるか、という体験は、一種の贅沢体験かもしれない」
チーム:
「SNSでのコミュニケーションに課題を抱えている人にぜひ体験してほしいと考えています」
過去の自分と対話できる場所
チーム「団子3兄弟」が実現したいのは過去の自分とのコミュニケーション。悩みを抱えた現在の自分が、過去の自分と語り合うことで、悩みと向き合います。
提案したのは、"自分カフェ"と呼ばれる場所に保存された、過去の自分との対話。
カフェのマスターはA.I.を搭載したロボットです。マスターは、相談者の話を聴くと同時に、相談者が過去にアーカイブした映像と音声を呼び出し、SR技術※2を使ってその表情や声を変化させることで、現在の自分と過去の自分の対話をマネージメントします。
自分カフェに行けば、過去の自分が、現在の自分の悩みに耳を傾け、適切なアドバイスをくれたり、鼓舞してくれたりする。チームがめざすのは、そんな「自分が自分を助ける」社会です。
※2 SR(Substitutional Reality):
日本語訳は「代替現実」。現実世界の映像と、同じ場所で撮影された過去の映像をすりかえることで、まるで過去の出来事が今、目の前で展開されているように錯覚させる技術。
審査員:
「マスターはどうやって過去の自分と現在の自分の対話をマネージメントするの?」
チーム:
「マスターはA.I.ですが、人間でいえば来談者の話を聴いて心理療法を施すカウンセラーのような存在です。現在の自分の悩みを聴いて、それに応じて、保存されている映像のうち、どれを使うかを決めます。声や映像を加工し、悩みに応じた反応をしてくれます。瞬きもするし、うなずいたりもします。
審査員:
「過去の自分が書いた手紙や、過去の映像を見るだけではダメなの?」
チーム:
「過去の自分と、今の自分のやり取りが重要なんです。身振り手振りやうなずきも含めて」
チームが大切にしたのは、「過去に保存したエネルギーを受け取る」そんなイメージでした。
審査は白熱!
12チームが渾身のプレゼンテーションを終え、日本科学未来館の展示で癒されている(?)間に、研究者、クリエイター、データサイエンティスト、未来館スタッフは、熱い議論を交わしていました。12チームの中から、実際に展示の作成に進む優秀賞3チームを選ばなくてはなりません。
激論が交わされる中、発表時刻の17:00がやってきました。しかし議論はまだ決着していません。
アナウンス:
「審査結果の発表時刻を17:10に変更します」
審査員も真剣です。妥協はありません。
アナウンス:
「審査結果の発表時刻を17:20に変更します」
すでに控室に集まっているビジョナリーたちに緊張が走ります。
アナウンス:
「審査結果の発表時刻を17:30に変更します」
そして17:40過ぎ。
ビジョナリーたちが再び会場に召集されました。
ついに優秀賞と特別賞が決定したのです!
果たして白熱した審査の結末は?
優秀賞
チーム「家族」:
~家族の絆をキープするために、離れた家族の足音や香りなどの「雰囲気データ」を再生できるようにしたい!
チーム「葛藤」:
~5歳児ロボットで親が自分の存在感を感じられるようにしたい!
チーム「パー」:
~様々なメディアやデバイスを体験し自分なりの使い方を考える、そのきっかけをくれる部屋があったらいい!
(以上、五十音順)
特別賞
チーム「クロワッサン」~ありがとうの伝え方を共有したい!
チーム「団子3兄弟」 ~SR技術を使って過去の自分と話せる場所「自分カフェ」をつくりたい!
(以上、五十音順)
こうして、展示制作に進む優秀賞受賞チーム、展示制作は行わないが優れたアイデアに送られる特別賞受賞チームが決定しました。
しかし、キャンプの着地点は賞だけではありません。参加した若者たち一人ひとりが一人前のビジョナリーとしてスタートラインに立つことです。
キャンプの全日程が終了したとき、その目標が果たされたことを私たちは確信しました。
託されたもの
2030年、今からほぼ10年後、ビジョナリーたちは何歳になって、何をしているんだろう。
審査員から各チームにコメントやアドバイスが送られているとき、ふとそう思いました。
私たちは、2030年にいったいどんなコミュニケーションをとっているのでしょうか。
今から10年前、スマートフォンが私たちの生活をこんなに大きく変えてしまうことを予想していた人はほとんどいませんでした。
考えに考え、データをひっくり返して予測したとしても、2030年にはたぶん予想外のことがたくさ起こっていることでしょう。
活動の場を宇宙まで拡げても、生命の営みを操作できるようになっても、まだまだ日常生活の中で気持ちや考えを伝えきれていない私たち。私とあなた、国と国。様々な場面での誤解やすれ違いを解決するために、衝突を回避するために、私たちの手探りは続くのでしょう。
それでも未来を語る。そんな若者たちが目の前にいるこの場面こそが、未来へのビジョンなのかもしれません。
次の一歩
プロジェクトの第一段階、ビジョナリーキャンプは終了しました。
どのチームも、自分たちなりのビジョンを描き、アイデアの芽を出すことができました。
しかし、今いる場所は出発地点にすぎません。
変化し続ける社会の中で、ビジョナリーたちが、自分のビジョンやアイデアを社会に向けて発信し、周囲を巻き込みながら行動をおこしていく。
私たちは、そう信じています。
「ビジョナリーキャンプがきっかけでした」
いつかその言葉を聴くのが楽しみです。
おわり
告知:未来館ビジョナリープロジェクト
日本科学未来館では、2019年10月4日(金)からビジョナリーのビジョンやアイデアに基づいた展示を公開しています!
そのプロセスは公式twitterでぜひチェックしてください。
展示の内容は、Webサイトから覗くこともできますよ。
ビジョナリーキャンプ特設サイト
https://www.miraikan.jst.go.jp/sp/miraikanvisionaries/
ビジョナリーたちが未来に向けて放ったアイデア。いったいどんな姿で皆さんの眼の前に現れるのでしょうね。
そうそう、未来館に遊びに来たときには、皆さんのビジョンやアイデア!
小さなかけらでも全然結構です。
ぜひ聴かせて下さい!
それでは皆さん、未来館でお会いしましょう!