許可はなくて結構、好きに踊るし愛するわ(P・T・D ON STAGEに寄せて)
過日、彼らのオンラインコンサートが催された。
直前に大切なメンバーの1人の怪我が発表され、『人生、至る所に落とし穴があるもんだね…』とやるせない思いにもなったが、それも含め人生というものなのだろう。
人は待ちに待った旅行の前夜に限って熱を出すものだし、引退前の最後の大事な総体目前に骨折をする(※共に我が愚息の例)。
台風は楽しいお出かけの日を狙ったように直撃してくるし、祝い事の最中にも忌み事は起きる。
人が生きてるって、謀らずもそういう目に遭うってことだ。
努力や細心の気配りでそれら全てを防げるはずだと思っている人は、無意識のうちに自身は絶対そういう目には遭わないと信じ切っていなさるのかもしれないが、それは著しい想像力の欠如と言わざるを得ないだろう。
生涯無傷でいられる保証など、この世のどこにも存在しない。
ならばわたしは、『起きてしまった事実をどういう形で記憶することになるか』にフォーカスして生きていきたい。
あの日わたしは、『彼は自分の魅せ方を熟知している人だから、本番では内面の悔しさややり切れなさを抑えて、座っていてさえ人心をぐいぐい掴みに来るパフォーマンスを見せてくれることでしょうな』と、期待することにした。
心配とは、自分の中の不安を相手に押し付ける行為だという言葉を聞いたことがある。
それは言い換えると『呪い』みたいなものだと。
大切なメンバーを呪うはずなかろうがい!
わたしは心の中でそう啖呵を切り、心配でなく期待を胸に、オンラインコンサートに臨んだ。
そして案の定、彼はやり切ってくれた。
コンサートの最後、このステージを振り返るコメントで『楽しくなかった』とこぼしたところまでを含めて、あの日の彼はわたしの個人的期待を裏切らなかったと言える。
安くはないお金を払って世界各国のお茶の間でワクワクと待つアミ達に、完成された7人のパフォーマンスを見せられなかったことを、プロである彼が申し訳ないと思わないはずはない。
だけど、最後の最後までずっと詫びの言葉一辺倒だったとしたら、わたしは正直『もういいっつーのよ』と思っただろう。
それが、『楽しくなかった』と彼は言いなすった。
決して不貞腐れたような気持ちでその言葉を言ったわけでないことは、彼という人物を見てきたアミさんならば皆さん完全に理解していることだろう。
ならばその一言は、こちらが楽しみにしていたのと同じくらい、ステージに立つ彼も楽しみにしていたことを意味すると思う。
提供する側と受け取る側の、奇跡的な両想いである。
申し訳なさのその先にある、個人的な本当の気分をちょびっと漏らしてくれたことで、わたしに『だろうねー。ドンマイ。』と心置きなく言わせてくれた。
この嘘がない青年を愛さない人がいるだろうか?
えっ?いんのか?
人が心で思うことは何でも自由だから、その嘘のなさを許さないのも勿論自由。
それならわたしは、そっちサイドの人とは静かに遠〜く心の距離を置こう。
あと、他人の身なりの趣味に文句つける手合いともね。
・・・話の入り方を完全に間違えた。
わたしがあのオンラインコンサートを通じて真に語りたかったことは、別のことだ。
セットリストの話をしたかったのだ。
あのセトリを彼らがいろんなことを考えて組み立ててくれたことに、どう考えても感謝が止まらないという話だ。
古くから彼らを見守ってきたという人々には、決して平坦ではなかったであろう彼らとの長い日々を振り返るに最適な曲目の数々だったのではなかろうか?
頭の中を走馬灯が回りまくりだったことでしょう…(もらい泣き)。
感慨深くも胸アツなセトリであったと思われる。
そして、新しく彼らを好きになったばかりで、まだ知らない楽曲も多いという人々にとっては、知る人ぞ知る隠れた名曲的なものを排し、MVなどで目や耳にしたであろう楽曲で固めたセトリは、誰一人置き去りにしないという優しさでいっぱいだ。
結果、新旧どちらのアミにも配慮した、素晴らしい采配だったと思う。
わたしは古びた身体とは裏腹にピチピチの新しいアミなのだけれど、それでもI NEED UからのSAVE MEでホロリと涙を零した。
あの、I NEED UにSAVE MEのイントロのアイコニックなメロディーを重ねてきたのは、どこぞの誰さんだろう?
お給料を倍額に上げるか、せめて金一封をあげてほしい。
彼らの音楽ってすごく凝ってるなぁと常日頃から感じてはいたけれど、あれにはとてもグッときた。
なんか、胸の切なさボタンを連打された。
リアルタイムで聴いていないわたしにも、充分に伝わるあの感じ…。
(すべては繋がっている)
(やはり音楽に時間軸は関係ないな)
(全部が、今現在の彼らの中にあるんだな…)
そんな事を感じながら、わたしは小さなノートパソコンの画面の前で猫背の広い背中を丸めて、何度も涙を拭った。
本当はデカいTV画面で堪能したかったけど、私のノートパソコンにはHDMIケーブル繋ぐ端子が無かった…。
無観客でのコンサートという異常な状況が続いて、萎えて当然なはずの心をそれでも必死に奮い立たせて、彼らは最善を尽くした素晴らしいステージを見せてくれた。
文句なしにカッコいい。
感謝であり、尊敬である。
そして、彼らはみなさん20代で、あの精神力とあの力量よ…?
40、50代になった時には、どれほどのレベルまでいってしまうおつもりよ?
あの夜わたしは、あと30年くらいは長生きして、その姿を見届けてみせると心に誓った。
休肝日を増やそうと思う。