「こどもまつり」のラストは校歌斉唱。パパママたちが感極まった理由とは!?
音楽の先生「では、さいごに、校歌を歌いましょう!」
はーい! と言って集まる、2年1組の子どもたち。
伴奏が始まる。ん? アップテンポで、あまり校歌らしくない。
「わーたしたち~は~、ちよちよしょう! げんきに、の~びのび、そだつ~んだ~!」
集まっていた親たちから、感動の声が聞こえる。声を殺して、おえつする親も少なくない。
だいごパパ「ああ、これが令和の校歌だよ……。」
だいごママ「ほんと、素晴らしい……。武蔵野だの、多摩川だのっていう、ふつうの校歌なんて、もう聞く気になれないわ……。」
ゆなママ「皇居がどうとか、わが国が~とか、日本の中心とか、そんな歌詞だったら、どうしようと思ってた……。」
ゆなママは、涙ぐんでいる。「千代田区の校歌」というだけで、ビビっていたようだ。
「の~びの~び~、にょーきにょーきー、おーそーらーまでー。」
きゅうじ母「作詞作曲は、鳥山明ですってね。すてき~。ちよちよ小にぴったりよ。」
れなママが驚く。
「鳥山明って、ドラゴンボールを描いた漫画家さんよね? たしか、名古屋在住の。千代田区に関係ない有名人が、なんで作詞、作曲を?」
りこママ「だからいいんじゃない~。このテキトー感が。千代田区の歴史を感じさせるような重厚な校歌は、ちよちよ小にはいらないのよ~。」
うん、わかる気がする。歌声を聞いて感極まっているのは、ゆなママだ。
「わたし、番町小出身で。『記念の歌』っていうのがあるんだけどね。」
れなママ「へえ。校歌以外にもあるんだー。」
「いきなり歌い出しが『明治四年のこの月この日 この学校ははじめてたちぬ』よ? 単なる自慢に聞こえるの。そればっかり、いっつも歌わされるのよ……」
(注・本当にあります。http://www.bancho.cc/song/)
りこママが、涙ながらに言う。
「学校がいつできたとか、どうでもいい。そういうのが好きな人達だけで歌ってて! 子どもに強制しないで……。ちよちよ小、最高ー!」
校歌はつづく。
「い~け~、GO! GO! のび、GO! のびのびGO! GO! GO~。」
さくらこママ「もうすぐ、最後ののキメよ!」
れなママ「最後のキメ?」
まわりの親たちが、一瞬、さくらこママに目をやった。そして、「キメ?」「校歌にキメってどういうこと?」と、ざわつく。
しかし、すぐに静かになった。みんなもっと、校歌を楽しむためにーー。
「のーびてー、のーびてー、ちきゅうをすーくえー。」
え? 地球、救うの? 全員が思った。
「せいぎのみかたさ~! ポウ! ちよちよしょ~。シャア!」
終わった。
うん、さすが鳥山明先生の作だ。
一瞬の間のあと、われんばかりの拍手が、2年1組のみんなに贈られた。
キメというのは、決めポーズのことだった。
みんな、思い思いの「一番かっこいいポーズ」をキメている。
「キメのポーズまでが、ちよちよ小の校歌なんですよ。はっはっは~。」
校長先生が後ろから大きな声で言った。
わっと、親たちが校長先生のまわりを囲んだ。
りりかパパ「校長先生! これこそ、令和の教育、生きる力ですよ! どうせ千葉から越境入学するなら、わたしも、ちよちよ小に越境したかった! くう~。名曲だ……。」
さくらこパパ「『シャア!』が実に良かった! ぼくも歌いたいな~。駅前のカラオケとかに入ってます?」
りりかパパ「決めポーズ付きっていうのが斬新だ。滝廉太郎も思いつかなかっただろう。ふふ。」
しまこママ「あのう、わたし、この歌で、NHKのど自慢に出ていいですか?」
ひろきの父「うん! この校歌を一日中、うちの店で流そう! そばやカツ丼を食べてるサラリーマンが、みんな泣きながら食べるだろう。」
みんな、これまでにない斬新な校歌に、熱狂している。我を忘れて、自分たちが何を言っているか、よくわかっていないのだろう。
それを聞きながら、校長先生はただ、はっはっはっと、笑っているだけだ。
忘れていたが、校長先生の後ろに、ボッカボカにされたらしい、リンカン先生がいた。
かすかな声で、
「ちよちよしょ~。」
と、歌っていた。
「ママ―! きょう、わたし、がんばったから、夜ご飯はカレーね!」
「うん。そうね。がんばったわね。ところで、れなの最後のキメポーズは、何だったのかしらー? なんか、いちばん目立っていたわよー。」
れな「男子3人の上に乗って、祈ってたみたいなポーズ? あれはね……。」
れなママ「あれは?」
れな「あさがお! まわりで5~6人、土下座みたいにしてた子たちが、葉っぱ!」
れなママは、本音をこっそり、胸の奥にしまった。
「キメポーズのれな、どこかの教祖かと思ったわ。大物に育てすぎたかしら? ううん。そんなこと、れなには言えない。秘密よ秘密。」
「うんうん、かわいかったわねー。じゃあ、カレーをつくるわね!」
「わたしも手伝うー!」
「まあ、ありがとう! じゃあ、お野菜を洗ってくれる?」
「シャア!」
と、れなが言って、にんじんやたまねぎを洗いはじめた。
れなママ「ちよちよしょ~♪」
歌いながら、お肉を切る。
れな「のびのび~。地球をすーくえ~♪」
歌いながら、れなもピーラーでニンジンの皮をむく。
パパ「正義の味方さ~。ポウ! ちよちよしょう~♪」
気づけば、れなパパも歌いながら、たまねぎを刻みはじめた。
今日のカレーは、格別ににおいしくできそうだ。