減量治療中の患者さんとの診察室での哲学的な対話
減量治療中の女性との対話は「食欲をどう考えるか」「お腹がすいたときの間食をどう受け止めるか」といった、とても認識論的な対話が展開されることが多い。僕の場合、そうした禅問答のような対話は50才前後の女性に多いような気がする。
事例紹介
事例1:空腹時の間食に罪悪感を感じてしまう女性
昼食と夕食の間隔が長いある女性はお腹が空いても間食することにはある種の罪悪感があり、ずっと我慢していた。栄養士から臨床経過も良いのだから、そういうときには軽くスナックを摂った方が良いと勧められ、この2ヶ月間実行したという。その結果を不安に思いながら来院したが、A1cにはまったく変化がなかった。
事例2:目標体重を超える減量に成功したが、減量行動にブレーキがかけられなくなった女性
その女性は治療ナイーブな糖尿病患者さんで、目標体重を[-13kg]に設定して、セマグルチド、SGLT2i+メトホルミンで治療を開始した。当初、リベルサスが身体に合わなくて躓いたが、オゼンピックへ変更後はその目標を超えて、[-20kg]まで減量することができた。家族からの応援もあって、来院する度に目をキラキラ輝かせながら順調に減量が進んでいる喜びを語った。途中オゼンピックを1.0mg/週から0.5mg/週へ減量し、メトホルミンを中止したが、その後も減量効果は持続。軽度肥満症であった彼女は今ではシンデレラ体重となり、A1cは5.3%。初診時体重からの減量率はなんと[-31%] 。
傍目にはもうダイエットをする必要がないのだが、減量努力を緩めることが難しくなっている様子で、「食べる量を急に増やすことは難しい」と。このままダイエットに突き進んだらちょっと危ないなという気配。
そこで、今後は糖尿病の寛解、BMI 20への復帰、体組成の正常化(特に骨格筋率の正常化)をめざして、すべての薬剤を中止した。
お二人に対して語ったこと
孫娘を見ていると、大好きなお菓子をあげても、お腹がいっぱいになると全部食べきらずに残す。カロリーの摂取と消費を調節する中枢が正常に機能していると、空腹感や満腹感はこんな風に自然体で行われるのではないか。お腹がいっぱいなのに食べたり、ストレスなど情緒的な刺激で食べることもない。これからの食事管理のゴールは「お腹が空いたら、身体がカロリーを求めているのだと素直に受け入れて、自然な行為としてスナックを食べる。そんな自分と身体の本来の関係を取り戻していくことではないだろうか?
まとめ
減量治療って、とても奥深いですね。そして「食欲」や「間食」などに対する感情を包み隠さず語って下さる方の方が、ダイエットに成功する例が多いような気がします。やっぱり減量治療って、治療者と患者さんとの『協働作業』なんですよね。