套路の作成について
武術太極拳の中でも自選難度競技というのは自分で套路(空手でいう型、フィギュアスケートでいうプログラム)を作ります。
長拳・南拳は1分20秒~2分、太極拳は3分~4分の長さです。
自分も自選難度競技を始めて8年が経ち、今も自分で套路を作っていますが、8年前に自選難度競技を始めたときはとても戸惑ったのを覚えています。
インターネットが発展して何でも調べられる世の中ですが、套路の作り方に関しては検索しても出てきません。(そもそも自選難度競技の人口が圧倒的に少ないので当たり前といえば当たり前ですが。)
そこで自分の套路作成の考え方を今回書き記そうと思います。
自分の専門が太極拳なので、今回は前提として自選難度太極拳についての話になります。
しかし自分も決して套路作成に関してセンスが良いわけではありません。自分で作成した套路をよくコーチや選手に怒られながら直されています。
ただだからこそ、その反省から学んだこともお伝えできればと思います。
どうやって作るか
前置きが長くなりましたが、早速どうやって作ればよいか結論から言いますと、
「ひたすら他人の套路を真似して、自分の得意なもの・気に入ったものを取り入れる」
です。
動画コンテンツが発達し、他国の大会動画もインターネットで見られます。そのため他人の套路を観るのは難しくないはずです。
ただもう少し丁寧に説明していくと、
まず何を真似するかについては比較的最近の套路(1~3年くらい前)をお勧めします。また最初のうちはなるべく動作にクセがないものを見た方がいいです。
何を以ってクセのあるなしを判断するのか、ときかれそうですが、これを言葉にすると大変な文字量になってしまいそうなので詳細はまた別の機会にして、ここでは沢山の動画を見ていく中で自分で判断してもらいたいと思います。(ちなみに自分はクセが強いといわれます。)
参考までに伝えておくと、中国人であれば福建省の選手はクセが少なく真似をしやすいといわれてます。
最近の套路を見る理由としては、套路にも流行りがあるので、最近の套路の方が現状のスタイルに合いやすいためです。
しかし決して過去の套路が悪いわけでもなく、また最近の套路はクセが強いものも多いので、過去の套路も参考にしつつ、最近と過去の套路のどちらか迷ったときに最近の方を選べばいいというくらいの基準程度に考えてください。
套路の流行りについて、
例えばヨコ14m×タテ8mのコートの中で、套路はどこから始まってどこで終わってもいいですが、最近は最後の収勢(終わりの部分)をコートの審判側の前側中央の位置で終わらせることが多いです。(その方が審判に対して迫力とインパクトを残せるため)
もちろん何でも流行りに合わせればいいものでもなく、あえてその流行りから外すことで周りとの差別化をする方法もあります。
套路の流行りは一年でなくなるようなものではなく、2~4年くらいかけてゆっくり変わっていくものだと感じているので、常に焦りながら対応するものではないと思います。(時のチャンピオンが流行りをつくるということも多いです。)
各動作について
当然ですが、コート正面にいる審判から、各動作がどのように見えるかについては常に気にするべきです。
身体の正面を常に審判に向けなければならない、というわけでもないですが、身体の背を正面に見せるならばしっかり背で見栄えさせる必要があります。
各動作の方向に関して、長方形のコートのなかで審判側を前方向として前後左右斜めの方向があります。
この中で斜め方向の場合、はっきりと斜めとわかる角度、つまり斜め45°の方向に動作を進めると方向の変化が前後左右とはっきり区別がついて、全体としてまとまりやすいです。進歩(歩法の一つ)で進むようなシンプルな動作は斜め方向に足を出して進むことが殆どです。
難度動作に関しては、その難度動作の前後で套路全体の流れ・リズムを変に止めていないか考えるべきです。
例えば跳躍難度前に着地を成功させるため一息落ち着いてから跳ぶことが多いですが、前後の動作が素早く激しい場合にはそこだけ止まってしまうとリズムが勿体ない感じがします。
ちなみに難度の方向について、例えば正踢腿は爪先が額につかなければ減点ですが、それを隠すために正面中央斜め向きに蹴り上げて審判からは見えにくくするテクニックもあります。(もちろん審判は目を凝らしてますので完全ではないです。)
套路全体の流れなど
太極拳に関していえば、前半は太極拳らしいゆっくりとした動作が主となり、後半は陳式太極拳の発勁動作が多くなります。この流れは自選難度競技の初期の頃からの流れなので今後も暫くは変わらないと思います。
発勁動作は、最近は特に腰の小回りな動きを活かした細かく速い動作が多いです。ここは最近の流行りとして顕著な部分です。
ルールでは一応コートの四隅を使わなければ減点とありますが、太極拳ではコートの四隅全てを4分以内でまわっていくのは難しいです。四隅を意識しすぎて套路全体が散漫になってしまうようならば、減点覚悟で三隅だけにしたり、四隅の手前までいくような構成でもいいと思います。
曲
太極拳は背景音楽付きで演武をします。
大前提として歌詞が入っているものは大きく減点を受けてしまうので駄目ですが、具体的にどういった曲を使えばいいかといわれると正直解答が難しいです。
中国では一人の太極拳の演武に使う曲に数十万円をかけて製作することもあると聞きます。なのでそれだけ中国の選手が使っている曲は太極拳に合う良い曲が多いです。そういった曲がどういう経路を通ってか国外にも出回り、日本人である自分たちも使えています。
そのため中国で使われた曲を自分たちの演武の曲として使うことが多いです。
しかしこれは見方を変えるとやはり中国一強で、そこから抜け出せないことでもあります。
日本にも良い曲は沢山あり、編集次第では太極拳に合うものがあるはずです。正直自分はそこまで余裕がないため、他でも使った曲を使用していますが、近い将来に日本らしいオリジナルで世界を魅了するような曲を使う方が出てくるのを望みます。
(もちろんこの考え方は曲に限らないですが、曲が一番改善策として近いと思いますのでここで述べさせて頂きました。)
套路のアイデア
話は套路の作り方に少し戻りますが、自選難度太極拳の套路を作るのであれば、同じ自選難度太極拳の他の人の套路を見ていくのは当然ですが、たまには他の種目の套路を見てみるのもいいと思います。
例えば太極拳であれば伝統太極拳の套路を見てみたり、長拳や南拳、八卦掌や形意拳の套路など太極拳以外の套路もオススメです。
空手の型やフィギュアスケートなど同じ芸術スポーツを見るのもいいと思います。
企業などが、同族で占められていると、弱体化しやすい。それで昔の商家では、代々、養子を迎えて、新しい血を入れることを家憲としたところがすくなくない。似たものは似たものに影響を及ぼすことはできない、という。同族だけで固まっていると、どうしても活力を失いがちで、やがては没落する。
外山滋比古 『思考の整理学』(ちくま文庫)より
以上は外山氏の『思考の整理学』からの引用ですが、これと同じことが学問の世界、つまり人間の思考にも当てはまるといいます。
なので套路作りに関しても、ある程度同じ類の套路を見たら、そこから別の種類の套路を見て知識を蓄えていくといいと思います。
一種類だけ(例えば自選難度太極拳について)深く、あとは広く浅く知識を蓄えていくようなイメージです。
また套路を作成していく中で、途中どうしても行き詰まることがあると思います。そうした時には根気強く四六時中考え続け、ふとリラックスした時に思い付くこともあります。科学の「ユーリカ!」ではないですが、それと近い感覚です。
このようなアイデアについては依然読んだ『アイデアのつくり方』という本が大変参考になりました。『思考の整理学』と合わせてリンクを貼っておくので興味がある方は是非読んでみてください。
さいごに
套路は、真似をしたものでも、他人が作ったものでも、自分が作ったものでも、自分が演武する以上はそれを気に入らないといけません。
初めは腑に落ちないような套路でも繰り返し練習すれば気に入ることもあります。そのため時間が必要です。
そして少し抽象的な話になりますが、良い套路にはストーリーのようなものがある気がします。そのような套路は、演武する人の技術関係なしに套路そのものを見ていて楽しくなります。
これまで8年間自選難度太極拳をやってきて、その分だけ套路を考え続けていますが、まだ套路を迷うことが多いですし、完全に満足した套路を作成できたことも殆どありません。
しかしだからこそ套路作りは面白いのだと思います。