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感想(よりもっと不確か)

一本目が終わったあと、隣に座ったサラリーマン風の男性がまぁまぁ大きめのため息をついて座り直す様子を見て、ですよね、と思った。
私も同じタイミングで息を大きく吐いていた。
まじかよ、こんなしんどいの、あと二本もあんのかよ、って思ったよね。わかる。

濱口竜介監督の「偶然と想像」は三部構成のオムニバス形式で、一本がまぁまぁ長い。そして重い。
独特の感情をおさえた、膨大な量の会話劇とセリフ回し。見ているこっち側としては読書しているような気分になる。
この抑揚のない発声に違和感を覚えるという声もあるが、私は好きだ。言葉が無駄無くスーッと脳まで入ってくる。

2021年のあの冬、公開当初は話題になって勿論自分のみに行くリストには入っていた。
でもあんな事があって。
私は行く機会をなくしたまま、今になってやっと見た。
配信が無かったり、ミニシアターで再演されることも多く、うまく予定が合わなかった。
いや、言い訳だな。
あの時の事を思い出したくなかったんだ。私は。無意識のうちに。

結論から言うと今見てよかった。
三作の物語は全部、「何らかの過去と向き合わなかった人が、偶然によって向き合うことになる」話だからだ。
あの時の自分が観るより深くしっかりと自分に刺さってしまった。
これだから映画は恐ろしい。

どの話も非常にエモーショナルで楽しめたのだけれど、一本目が一番好きかな。
古川琴音のいら立ちと、元カレへの辛辣なひやかしが良かった。「寒いんだよ、お前ら」のセリフだけ、もっかい聞きたい。
あと、長いやり取りの中でひときわ印象に残るセリフがあった。

「カズ、想像した事ないでしょ。カズを傷つけた事で、私がどれだけ傷ついたか」

ああ、そうか。
あの冬。
私は彼らを傷つけると同時に自分も傷ついていたのか。
わからなかった。
そこは気付いていなかったな。
今わかった。

私が傷つく資格なんてないんだけれど、ってずっと思ってた。
でも。
私だけはそれを認めて、私だけはそれを抱きしめて生きていっていいんだ、と思ったら少しだけあの時の自分が救われた。
あぁ、二話目でそんなやりとりあったな。
私の記憶や体験と物語が往復しながら進んでいく。それは私にしか無い映画体験で、同じ場所で同じ映画を見ている多くの他の人にもそれが起こっているかと思ったらゾワゾワした。

物語はいつもそんなふうに不意に私たちに関与してくる。
隣の席のサラリーマン風の男性も、だからあんな大きめのため息がもれてしまったんじゃないかと、私は勝手に想像する。



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