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【展示会】吉田志穂個展「印刷と幽霊」

@BUG


本展にて撮影
ギャラリーに入る前に私たちを迎えるこの大きくどっしりとした壁は
もともとあるものかと思いきや、この展示のためだけに施工したもの。
本ギャラリーの施工のフレキシビリティにも驚かされる。

 前回訪れた千賀健史さんの個展で大好きになったBUGは東京駅すぐにあるアートギャラリーとカフェが併設された施設だ。展示方法やロケーションにおいてもどれをとっても素晴らしいギャラリーであるため、また別の記事でまとめていきたい。
 今回の展示は写真家の吉田志穂さんの個展である。

吉田志穂さんについて

吉田さんのInstagram

吉田さんのX
https://twitter.com/shihoyoshida_

1992年千葉県生まれ。東京都を拠点に活動。2014年東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。

主な展覧会に、「この窓から見えるものが変わったとしても」(写大ギャラリー、東京、2023)、「記憶は地に沁み、風を越え 日本の新進作家 vol.18」(東京都写真美術館、2021)、「あざみ野フォト・アニュアル とどまってみえるもの」(横浜市民ギャラリーあざみ野、神奈川、2021)、「TOKAS-Emerging 2020」(トーキョーアーツアンドスペース本郷、東京、2020)、など。第11回写真 「1_WALL」グランプリ受賞(2014)、第11回 shiseido art egg(2017)入選、Prix Pictet Japan Award 2017ファイナリスト。写真集『測量|山』(T&M Projects)などで第46回木村伊兵衛写真賞受賞(2020+2021年度)。

 BUGの展覧会HPより https://bug.art/exhibition/yoshida-2024/

 高校時代に写真部に入ったことがきっかけで写真を始めた吉田志穂さん。BUGが運営するYouTubeチャンネルでインタビュー動画が公開されているが、
「社会にとってアーティストとは」
という質問に対して
「こういうのをあんまり考えるタイプではない」
と答えたり、
「今後のビジョンは」という質問に対しても
「本当に何も考えていない」
と答える素直な一面。とても魅力的な方である。
ただ、芸術について「考えなくてもいいことを考えられるきっかけとなるもの」といっていたのが私の印象に大変残った。

 誰でも写真が撮れる時代で、かなりいい写真ていうのが世の中にあふれている時代に、写真家と名乗っている人間が何を撮るべきなのかをすごく考えていいつつも吉田さんは、アーティストになろうとはしていないと述べる。
ますます好きになってしまう。

インタビュー動画ではアーティストのワーク・ライフ・バランスについて聞いていたり、違った角度からの質問があってとても興味深いためぜひ視聴してみてほしい。

インタビュー動画のURL
https://youtu.be/Tr-ar7gY2OU?si=dHEzBEJ2U0Cim-0j

展示作品

タイトルの幽霊について

 まずもって驚くのが個展のタイトル。最初に観たときにぐっと心を惹かれつつも「印刷と…ゆ、幽霊…?」と思ったのが正直なところ。

最初に迎え入れてくれる、何枚も印刷された写真の塊

 この「幽霊」というワードは吉田さんが写真と向き合う中で経験してきた、「ないようである、あるようでない」という感覚からきているものだそう。これは写真を撮った時に現れる、肉眼では見えない光や物体の軌道などの実態がないものに対する感覚であるが具体的に3つの『ゴースト』についての説明がされている。

3つのゴースト

①レンズのゴースト
 太陽などの強い光がカメラのレンズに入ってきたときに光が反射してできる「ぼんやりした光の形」や「点」のこと。写真にお化けのような光が映り込むことから、ゴースト現象と呼ばれる。

②印刷のゴースト
 印刷物に、データ上は存在しないインキの濃淡が生じる現象のこと。実はデザインやインキ量によって印刷時に発生しているらしい。

③Google Mapのゴースト
 吉田さんの作品にはGoogleMapを利用した作品が特徴の一つに挙げられる。ここでいうゴーストは地図上に実際には存在しない建物や道路、地形が表示される現象のこと。古い情報の更新漏れやデータの不整合によっておこる。

作品について

 以上の3つのゴーストを、商業印刷の中で最も一般的な手法であるオフセット印刷で展開されている。

Google Map 上で見つけたゴースト現象をカメラで撮影し、さらにその画像データをプロジェクターで投影した植物と撮影した作品。
デジタルとアナログの融合といった感じで面白い。

 どの作品も吉田さんが不可視なものについて探求してきた形跡が読み取れてかっこいい。

山頂で太陽を撮影し、光の反射によって生じるゴーストをレンズに取り込んだ作品

上の写真の作品は個展のステッカーの絵にもなっている。カラー写真だとなかなか知覚できない光の反射によるゴーストがオフセット印刷によってはっきりとした形をもって映り込んでいる。

過去に撮影した、今は取り壊されてしまった建物の写真データを水面にプロジェクションし、それを撮影した作品。
水面が移っているせいか、普通の写真とはまた違った印象を見せてくれる。


広大な壁面に展示されていた作品群の一つ。
大量印刷によるものだろうか、二つの場面が重なっている。

 印刷時に起こるエラーは実際には機械が起こすのではなく人間が加えた操作によって起こるもの。
 吉田さんの作品を観ていくと、機械を通した人間の存在、またはそれの間の現象までもが感じ取れてくる。温かくてそれでいて斬新でかっこいい。

ギャラリーのに床置き展示されていた大量に印刷されていた作品。
ここまでくると写真という概念を超えて物体としての存在感が強くなる。
なかなかない感覚だ。


展示方法

 今回の個展では作品そのものの良さもさることながら、展示の仕方もとてもよかった。
まずは全体としての作品配置

ギャラリーの広大な壁面展示

 BUGは大きな一つの空間が特徴的であるが、その空間を最大限使って印刷された作品が展示されている。写真の印刷に合わせたのであろうグレーの壁面いっぱいに飾られた作品と、床置きされた作品が点在する空間は壮大である。
 BUGのむき出しの天井ダクトとの相性もいい。かっこいい。

作品のとりつけ方はシンプルかつ斬新な方法。

 また、壁面に設置する作品の取り付け方も面白かった。壁につけられたステンレス?の細長い棒に磁石を使って挟んでいるだけ。すっきりしていて作品自体が最大限の存在を放てるようになっている。

全体として

 写真を通して不可視の存在を探求している姿勢は、ただ写真を撮るという行為から逸脱して私たちが本来知覚しなかったであろう世界に触れさせてくれる。写真本体ではなく印刷機に焦点をあてた作品たちは私にとってなかなか新鮮で興味深いものであった。また、印刷時のエラーを利用した作品たちは、このBUGという名のギャラリーで展示することにも関連性がありピッタリなように感じた。
 吉田さんが今後生み出す写真の新たな可能性に今後も注目していきたい。

展示会情報

吉田志穂個展「印刷と幽霊」
2024年10月30日水 — 12月1日日
時間:11:00 — 19:0
入場料:無料
主催:BUG
協力:Yumiko Chiba Associates
   LIVE ART BOOKS

BUGでの次回展について


次回は複数のアーティストを一挙に紹介する場として、アーティスト7名が小展示と多様なプログラムを実施する模様。これまでアートに触れる機会の無かった社会人や学生なども楽しめるようになっているようなので、皆さんもぜひ。


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