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木曜22時、仕事終わりのドライブとマックと花束

12月7日木曜の21時半。
「突然だけど、今日の夜ドライブしない?」と仕事終わりに同期に呼び出された。タイムズで借りた車で私の家まで迎えに来てくれた彼女たちとともに、目的地のないドライブへと踏み出す。

仕事終わりに車で掻っ攫ってくれる同期と出会えて、ほんとうに嬉しい。家に迎えに来る21時半という時刻が何よりも現実的なのに、木曜の21時半に同期と目的地のないドライブに出かけているこの状況が何よりも非現実的でこれ以上にないほどわくわくしていて、「社会人って、悪くないかも」とふと思った。


夜の22時に食べるマックはなんて美味しいんだろう。冬といえば!なグラコロを頬張りながらそんなことを考える。

やたらとイートインスペースの広い2階席に、ぽつぽつとまばらに人がいる。スーツを着て仕事に疲れた顔をしたサラリーマン、パーカー姿の大学生らしき人影がそれぞれスマホをいじっている。こんなとこで話していたらきっと会話はだだ漏れなのだろうけど、そんなことお構いなしに浅かったり深かったりする話をとりとめもなく話す私たち。


夕方の放送のような音楽が店内に響き渡る。「もうこんな時間か、あっというまだね」なんて話しながら帰り支度をする。時間を見計らったかのように、ちょうどポテトのMサイズをそれぞれ食べ終えていた。みんなでLサイズ1個を頼むんじゃなくて、みんな1人ずつセットでポテトを頼んでいるような、そんな2人が私は大好きだ。

「あと2分だね」階段を降りながらカウントダウンをする彼女の言葉に、日を跨ぐまで一緒にいれることが嬉しくてにこにこしながらマックを出た。

突然走り出した2人は車から荷物を取り出して、「(私)、誕生日おめでとう!!!!」と楽しそうに駆け寄ってきた。

手に持っていたのは、花束だった。

呆気にとられた私に、「(私)のことを考えて、花を選んだの。」と話す2人。黄色と紫の花の色は満場一致の即決だったという。

「黄色は、話しやすくてお茶目で、意外と抜けてて可愛いところ。紫は、自分の強い芯があって、かっこいいところだよ。(私)は、その2つの面があってどっちも素敵で、どっちも含めて好きなんだよ。」

「誕生日プレゼントは悩んでさ。(私)は、こういうの貰うと気後れするタイプでしょ?渡すと負担になって悪いなと思って、でも何かしたくて悩んで花束にしたんだよ。お返しなんて気にしないで、ただ貰ってよ。」


社会人になって、自分の誕生日をいう機会も相手の誕生日を覚える機会もなくて、というか私が誕生日覚えるの苦手なポンコツ野郎だから、自分の誕生日祝ってもらおうだなんておこがましいことは期待していなかった。なのに、自分の誕生日ぴったりに、しかも平日の真夜中に直接お祝いしてくれる人がいて、その事実がとても嬉しくて、でも私にはもったいないくらいだった。こんな素敵なことをしてもらえるほど自分はいい人じゃないし、2人に何もできていないのに、いいのかと思った。

正直いうと、花束を貰って嬉しいという人の気持ちがこれまでは理解できなかった。花なんてもらって、何が嬉しいのかと。それなら同じ値段でもっと実用的なものをくれよと思っていた。

でも違った。自分のことを想ってくれた花束ってこんなにも嬉しいんだ。初めて知った。実用性がないからこそ、想いが素直に伝わって、形に残らないからこそ、心に残るんじゃないか。きっとそうだ。

家まで送ってもらうまでの車内で、2人は楽しそうに私の話をする。「私は初めて会った時黄色のイメージだったけど、どんどん(私)を知っていく中で紫の部分が見えてきたんだよね。」「いや、私は最初のイメージは紫だった。ロングヘアで強めのパーマをかけていたし、服装もモードな感じで。でも仲良くなるにつれ、全然道覚えられなかったりする可愛い部分が見えてきて、それが黄色なんだよ。」

こんな幸せな日があっていいのか、今この場にいるのって本当に私なのかと思った。2人が楽しそうに話す後ろで、これが夢でもいいから、と花束を見つめて、この幸せな一瞬を噛み締めた。

これからもずっと忘れない、23歳の誕生日。夜のドライブで眺めた東京らしくない風景も、だだっ広いマックのイートインで食べたグラコロも、大好きな2人も、その会話も、ずっと忘れない。

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