月曜の有休を味わい尽くす
社会人になって6ヶ月目、9月のお話。
入社してからというもの、日々変わりゆく環境に毎日しがみついていた。
平日は21〜22時まで仕事してるのがデフォルト。平日週1回程度、同期や友人と飲みに行く。そんな毎日。
しっかり働いた日は、どっと疲れて退勤後何もできなかった。その疲れを誤魔化し癒していくために、土日は友人と会う予定で埋め尽くした。華金のあとは飲んでて終電逃し、朝までカラオケなんてこともあった。
仕事は楽しい。生活も充実してる。
でもこのまま流れるように選択していていいのかという思いが、いつも頭の片隅にいた。それがだんだん膨らんで、なんとも形容しがたい不安にのみ込まれそうになったタイミングで有休をもらった。
せっかくの有休だから、と1日のスケジュールをしっかり立てた。
社会人になってから1人でどこかに行く気力が無くなっていたのに、有休のおかげでか急に湧いてきた。有休ってこんなに偉大なものだったのか。ただの土日の10倍くらい気力が湧いてる気がする。
有休の平日月曜。朝は家でトーストを頬張りながら、録画していたVIVANTを見た。
何にも縛られない時間の幸福感を噛み締めながらメイクをして、家を出る支度を済ませる。
向かった先はお気に入りのカフェ。1枚板のテーブルにしてもトイレのマークにしても、隅々まで空間にこだわっているのが、空間デザイン初心者マークの私でもわかるような素敵な場所だ。
何も考えずにレジへ行きすぐさま後悔した私は、脳死でお気に入りメニューを選んだ。選んだのはバニラカシューナッツバターのトースト。正直いうと、全然気分じゃなかった。ほんとに全く。
なんでそれを選んだのかもやもやしていたら、目の前にトーストが到着した。
ビジュアルを見てもそそられることはなく、うーんと思いながら一口食べた。
それがどうだ。ずぎゅんと何かが跳ね上がるような美味しさだった。あれ、こんなに美味しかったっけ。あぁ、そっか、この美味しさをちゃんと脳が覚えてたのか。
1人でご飯行くことに価値を見出せなくなっていた私だけど、久しぶりに思い出した。幸せってこういうことじゃん。
平日月曜の昼間で、お客さんも多くはなかったので読みかけの本を読み始めた。原田マハの「たゆたえども沈まず」だ。
お気に入りの空間で、何にも囚われずに好きな本を好きなように読むこの充実感に名前をつけたい。
文学を消費することと、エンタメを消費すること。どちらも誰かの創作物を消費する行為。どちらも幸福感を感じられる手段の1つだけど、得られる幸福の種類が違う気がした。
その後はサクッと気晴らしに、カラオケに行った。こういう時に限って、カラオケの抽選ボックスからは1等の5000円サービス券が当たった。平日昼間なんてカラオケが1番お得な時間では、フリータイムにドリンクバーつけたって3500円余る。サービスになって嬉しいはずなのに損した気がして、その気持ちすらもったいなく感じる。
1時間の予定が、結局4時間居座った。
3時間は1人で歌い続けていたから喉がガスガスだった。でも、休みつつ仕事も片付いたから結果的にはよかったかもしれない。
急遽あったカラオケ予定変更の関係で、行こうと思っていた美術展は別日にした。
さて、お次はあのお店で1人飲み...と思っていたところに、もう1つ候補で考えてたお店のストーリーが目に入った。「今日は空いてるから当日駆け込みもいける」とのこと。これも何かの縁なのかと思って、後者のお店に向かうことにした。
19:30。お店に着くとすでに賑わっていた。
1枚板のテーブルに8人程度がコの字型に座る。客席はそれだけ。カウンターのような構造になっており、店主さんをみんなで囲って団欒する。
この日はご近所の常連さんが多い日だったらしい。和気藹々とした打ち解けた空気の中で、非常連客の私は居心地の悪さをうまく消化できずにいた。こういうときって、どういう顔してるのが正解なんだろう。スマホを見るのも申し訳なくて、でも会話に入るのも申し訳なくて、気まずさを隠すためにワインをちびちびと飲んで、でも結局目のやり場がスマホにしか向かなくて。
私の左隣は年上の男性だった。会話に入らず静かにワインを嗜む彼は、着ている服や佇まいから気品を感じられる、見るからに紳士的な男性だった。
私の気まずさに気づいたのか、店主さんがうまいこと私にも話を振ってくれて、会話の内に入り始めたところで隣の男性とも会話が始まった。
海外旅行の話をしていたら、私がイタリアで感動したパニーニのお店に数年前に行っていたり、同じく原田マハの小説を読んでいたりと不思議な共通点がいろいろあって嬉しくなった。
帰り際に「またご一緒しましょうね」と言い残して、挨拶代わりに肩をぽんとして店を出る仕草もいやらしさがこれっぽっちもなくて、最初から最後まで紳士だった。気づいたときには気まずさも自分の中から消えていて、ほっこりした充実感に包まれていた。
素敵な出会いと、おいしいご飯とワインに酔いしれて、心がまるっと浄化されたみたいだ。こういう1日も大切にしていきたいね。
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