なぜスイスは最低賃金4,000円でやっていけるのか?(東短リサーチ 加藤出氏/Morning satellite Apr.2024)
なぜ、スイスは最低賃金4000円でやっていけるのか?について解説する。
スイス ジュネーブ州の最低賃金24フラン、168円で換算すると4,032円、東京都は1,103円、つまり3.62倍となる。また、平均年収2022年で比較すると、スイスは1,368万円、日本は458万円と同様に3.62倍となる。
例えば、2024年1月時点で、マクドナルドのビックマックは、スイスで1,193円、日本は450円に対して2.65倍となる。
スターバックスのアイスコーヒーを見ると、スイスで1,310円、日本は465円のため、2.82倍となる。日本に比べ、スイスは物価高であるが、賃金の方がより高いことになる。
実質賃金の推移(購買力平価ドル換算)をみると、1990年時点で39%、2022年更に差が広がり、76%と日本よりスイスの方が高い結果となった。物価上昇を差し引いた後の賃金となるため、スイスでは、物価上昇以上に賃金が伸び、国民の暮らしは豊かになってきたことを示す。
一方、日本の実質賃金は23ヶ月連続マイナスとなり、日銀はインフレ目標値2%を超えたとしても、賃金と物価の好循環が実現するまで緩和的環境を続ける姿勢をとっている。
現在のスイスのインフレを、コアコアCPIで日本と比較すると、断然低い。スイスの中央銀行SNBは、インフレ目標0から2%であるため、2%超えそうになると、金利引き上げ始める。
実際、2022年の半ばから、金利引き上げ、輸入物価が上がりすぎないよう、為替介入し、スイスフラン高に誘導している。つまり、インフレを押し下げ、それにより、実質賃金がプラスになるよう施策を取っている。
一方、日銀は、賃金が伸び、インフレを上回るのを待つ姿勢で、粘り強く金融緩和を続けてきた。しかし、低金利を維持することにより円安が続き、輸出企業の業績が伸び、今後賃金が上昇するストーリーを良しとするスタンスのため、スイスとは真逆とも言える。
このスタンスの差により、為替レートに随分と差が出てきている。かつて、円とスイスフランは、危機が起きた際、2大避難通貨と言われてきたが、近年は大きく異なる。
実質実行為替レートを見ると、スイスフラン近年安定しているものの、日本円は過去20年で価値がほぼ半分になっている。理由として、日銀は2013年からの異次元緩和により、全力で通貨価値を下落させてきたことが挙げられる。そのため、通貨避難先と決して言えない状況である。
通貨安にならないと輸出企業は利益を出しづらい中、スイス企業は、インフレ以上の賃金を払っていけているのか?について考えてみよう。
通貨安に依存しなくても、賃金および収益を伸ばし続けられるに優良なグローバル企業がスイスに多く、外国の企業もスイスに拠点を作りたがると言う面がある。外国からの直接投資(工場設立など)の残高ストックをGDP比(人口500万人以上/39ケ国)で比較すると、スイスは世界3位と高水準であるが、日本は39位と、外国から投資が入ってこないと言う状況である。
昨今、熊本に台湾のTSMCが進出し、九州全体の賃金が上昇したケースはあるが、スイスは政府が補助金を出さなくても、多くの企業が進出し、良いサラリーを出すというサイクルにより、賃金上昇が起きている。
その他に、グローバルに通用する高度な人材の宝庫とという点も挙げられる。世界人材競争力ランキングで、スイスは1位であり、海外経験や語学などグローバル企業が求めてる人材が多くいることが示唆できる。
一方日本は、先進国では最低クラスの43位であり、グローバル企業があの拠点を作りたがらない要因である。今後日本に必要なことは、金融政策や円安誘導だけでなく、基本的な構造的部分を変え、社会人の再教育による優秀な人材育成を行い、結果として生産性を上げることが重要と考えられる。