起業の「強い動機」の源泉は何?:ポジティブモチベーションとネガティブモチベーション
なぜこの事業をするの?
起業を目指している方のピッチ(プレゼンテーション)を聞くことが結構あります。
そのピッチの中では、事業の概要や将来性については語られているのですが、かなり多くの方が、
「なぜ自分達がこの事業をするのか?」
について語られていないんですね。
でも、こうしたピッチの目的は
「この事業に興味を持ってもらい、投資家(等)から投資を受ける」
「この事業を進展させるために初期協力者(下図の”イノベーター”が多くの場合対象になります)を得る」
っていうことだと思うんですよ。
シードステージやアーリーステージに投資するエンジェルやVC、そしてイノベーターは、「ほんとにこの人”やり切れる”の、この事業」っていう目で基本見ています。
「面白いアイディアだから飛びついたんじゃないの?」とか
「今はやりの技術やワードを使って繋ぎ合わせたんじゃないの」とか
表には出さないですけど、結構思っていたりするみたいですよ。
投資をする立場になると、その事業の「継続性」が最も大事になります。
事業をピボットするのは全然いいんです。さまざまな要因でピボットはあり得る話ですし、今の上場企業だってある意味ピボットしまくって生き残っている訳ですから。
「企業とは環境適応業」と言ってもいいくらいです。
もっというと、「課題適応業」かもしれませんね。顧客の課題解決が収益の源泉ですから、「課題」が変われば「ソリューション」も変わる。それがすなわちピボットだと思ったりします。
でも、ピボットはいいんですけど、途中で「やっぱりやーめた」となってしまうのが投資家としては一番怖い。投資した金額がドブに捨てたことになりますから。
「自分はなぜこの事業をするのか」について明確に語られていれば、それだけでピッチの説得力は大幅に増します。
表面的な「動機」は見透かされる
では、どのようなことでも良いから「動機」を記載しておけば良いのでしょうか?
そんなことはありません。
投資家は、それこそ数多くのピッチを見てきていますし、彼らがその後どうなって行ったかについても脳内に情報が蓄積されています。表面的に取り繕った「動機」はまず間違いなく見透かされています。
表面的な「動機」の例
以下によくある、表面的な「動機」の例を書いてみますね。もちろん、これが本当に心の底から出ている場合には問題ありません。否定をしている訳ではなく、whyの自問自答を繰り返すことをせず、考えを深めていない「動機」のケースで、このようなものが多い傾向が見られる、ということでご理解ください。
<社会課題型>
環境を大事にしなければならない
貧困問題を解決しなければならない
政治の問題を解決しなければならない
etc
<トラウマ型>
自分はいじめられていた
自分はモテなかった
自分は必要とされたことがなかった
etc
<流行型>
ブロックチェーンは今後のインフラになっていくから
メタバースに世界は移行していく
etc
などなど、さまざまなパターンがあります。でも、こうしたことも刺さらないことが多い。
なぜ刺さらないかというと、「動機のトライアングル」がうまく結びつかないからなんです。
「動機のトライアングル」とは
「動機のトライアングル」は、①動機、②課題、③解決策の順番で回っていくサイクルを指します。
自らの中に生まれる強い動機が、なんらかの課題を解決したいと行動を促し、その課題解決のための解決策(ソリューション)を考え出す。
その順番でこのサイクルが回る時こそ、このソリューションを広めることが自分のライフワークだと実感することができる。
ライフワークだからこそ、徹底的にやり切ろう。
そう思うわけ、ですよね。
ところが、多くの場合、この自分自身の中から生まれる「動機」が明確になっていないことが多い。
だから、「自分は一体何がやりたいんだろう」って感じてしまう。。
これ、自分自身の若い時の経験からも言っています。20代前半の私は、本当にそんな感じでした。
何がしたいのかわからない。
自分には人に勝てるような強みはない。
でも何かしたい。
そんな風に思っていました。
もっと、動機を掘り下げることができればよかったのですが、その方法も、それを指摘してくれる人もいませんでした。
動機には2つの軸と3つの深さが存在する
ここで「動機」について、少し深く見ていくこととしましょう。
動機には、2つの軸と3つの層があります。
①個人的志向なのか社会的志向なのか、という軸
②楽観的か悲観的か、という軸
③倫理→論理→情動、という層
それぞれについて説明していきますね。
①個人的志向と社会的志向
社会的志向とは、例えば「環境問題を解決しなければならない」「貧困問題を解決しなければならない」などのいわゆる「社会課題」寄りの志向(思考)のことを指します。
一方、個人的志向(思考)は、「自分は〜〜をしたい」「自分は〜〜だ」という個人的な思いに立脚した志向(思考)を指しています。
②楽観的と悲観的
楽観的と悲観的は字のままですね。
「楽観的」には、欲望なども含まれます。
楽しいから
金持ちになりたいから
世界一になりたいから
・・・
こんな感じのモチベーションも「楽観的」の方に含まれます。
③倫理→論理→情動
次は3つの円で記載してある、倫理→論理→情動です。
本物のモチベーションは、一番奥底にある「情動」から湧き出るものが自分を突き動かしますし、人を巻き込むこともできる強い力を持ちます。
実はこの円は、脳の構造と同じと思ってもらった方が良いかもしれません。
一番外側は、「倫理」ですから、道徳的や道義的に「美しいもの」などが入ります。
でも、どうしても「倫理」という一番表面の層で思考が止まってしまうと、自分自身へのコミットも、他人を巻き込む力も弱くなってしまいます。どうしても「美辞麗句」を並べているように思われてしまうんですね。
次の「論理」までいくと、「論理的に考えるとこうなる」というところまで行き着きます。この層まで思考が進むと、自分自身も論理的に自己「説得す」ることができますし、他人も「説得」することができます。でも、冷静すぎて、人を突き動かす力は弱いとも言えます。Stay Foolishにはなれないんですね、たぶん。
そして、最後に一番深層の「情動」まで思考を深めることができれば、「そうか自分がしたかったのは、この理由からだったのか!」と説得力が大幅に増します。
是非「なぜ」を何度も繰り返して、「起業の動機」を鮮明にしてしてみてくださいね。
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神永将行(Masayuki Kaminaga)
iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授
iU Z investment パートナー
起業家メンタルヘルス研究所所長
他 複数社の役員を兼任
個別のメンタリングサービスは
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