先般の「ホームタウン制度撤廃」の誤報について考えてみます
皆さん、こんにちは。神村です。
前回、プロセスエコノミーについて取り上げながら、企業が持つリスクやパーパスを重視する企業事例などを紹介しました。
今回は、少し前のことになりますがJリーグの「ホームタウン制度撤廃」の誤報について話したいと思います。こういった誤報に振り回されないために、また誤報をきっかけにして話題となった「ホームタウン制・地域の発展」について再考するきっかけになればよいと思います。
(本稿は「Off the pitch talk 」第158~160回の放送内容のまとめです。今回はインタビュー&文責:神田さんでお届けします)
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#158 : https://stand.fm/episodes/616d41a6abba8a0007bddeff
#159 : https://stand.fm/episodes/616fe2f70052ab000776de07
#160 : https://stand.fm/episodes/6172853f0052ab0007770948
溢れる情報に振り回されないために
(神村):今回は、Jリーグホームタウン制度撤廃が報じられた件について取り上げます。報道から数時間後、結果的にはリーグが公に否定して幕を閉じたんだけど、最初この記事を目にした時は正直ビックリしたよ。この一連の事件から改めて僕が気付いたのは、巷に溢れる情報に振り回されてはいけないということだよね。今回も、スポーツ紙で報道されたから一瞬本当かなとみんな思ったんじゃないかな。デマや誤報に騙されないためにも、特に大事なことが3つあるので順に説明していきます。
(神田):はい、是非ご教示お願いします!
(神村):まずは、多角的に物事を捉えるということです。日頃から情報を得る手段を多角化しておかないと、情報が偏ってしまうし、特定の情報源に左右されちゃうんだよね。神田君は普段どんな媒体を使ってニュース記事とか読んでるの?
(神田):特に決めてないですが、多いのは Twitter や NewsPicks です。僕が普段から注意しているのは、情報源が一つの物はあまり信用できないという点です。例えば、あるニュースが報道されたら、他のメディアや記事にも出ていないかは必ずチェックしています。今回の報道も、複数のメディアで報道・拡散される前の早い段階で訂正されました。
(神村):今まさに言ってくれたように、多様な視点で見るのはとても大事だよね。二つ目は、冷静に考えるということです。一歩下がって、「それって本当なの?」と俯瞰することが大切です。これは決して常に批判的に物事を見たり、斜に構えたりすることではないですから、そこは勘違いしないよう気を付けて欲しいと思います。
(神田):そうですね。三つ目は何でしょうか。
(神村):最後は、「仮に本当だったらどうなるか?」ということを自分の頭で考えることです。今回の一件も、リーグ側の声明が出るまでは、報道が事実だった可能性があった訳ですが、その段階で、仮にホームタウン制度が撤廃されたら?と想像してみるんです。周囲で起きる変化に対しての自主性というか、能動的変化力みたいなものを養うってことかな。デマに振り回されて損するのは結局自分だからね。
(神田):思えば、去年に始まったコロナに関するニュースでも、色んなデマやフェイクニュースで溢れかえりましたね。ワクチンも然りですが。
(神村):本当だよね。世に溢れる情報をどうやって活用すべきかが、今後より大事になっていくということだよね。
ホームタウン制度の意義
(神村): J リーグが発足してから30年ほどが経った今このタイミングで、ホームタウン制度撤廃のニュースが報じられた点について、もう少し触れたいと思います。そもそも、ホームタウン制度ができた J リーグ発足時、チーム名に地域名・スポンサー企業名どちらを入れるべきかという議論が話題になりました。結果として、企業の PR 目的ではなく、地域の中にあるスポーツチームという精神を重んじる方向へと舵を切り、今日までチーム名には地域名が入り続いているんです。
(神田):なるほど。J リーグ以降にできた B リーグや V リーグでも、地域名が頭にありますね。あくまでも、社会の中にスポーツがあるという位置付けなんですね。
(神村): 加えて大事なのは、ホームタウン制度ができたことで実際にどのような効果があったのか、ということです。全国津々浦々に J クラブがあって、それぞれのクラブが地元ファンを増やす取り組みをやっていたりするけど、都市の大小関係なく、地域活性のツールとしてスポーツをどう活用するかを考えていくべきです。勿論、サッカーだけでなく他のスポーツと複合的に関わることや、その地域を盛り上げるために自治体と協力することも不可欠です。これら一連の思想・動きが、ホームタウン制度によって全国に深く根ざしているのは事実だと思います。
(神田):確かに、もしホームタウン制度がなかったら、地元クラブや球団を応援するファンの人数も今より少なかったかもしれないですね。
(神村): 各地域のクラブが、自分たちに何ができるかを常に考えていることだけでも本当に素晴らしいことです。ただ、そんな中で今回の誤報が出されたのには、何かしらの背景があることも事実だと思います。
(神田):火のないところに煙は立たぬと言いますからね。これはあくまで推測ですが、 J リーグ本部内でも、ホームタウン制度撤廃に関する議論自体は過去にされていた可能性は否定できません。
(神村): そうだね。僕が否定する声明文を読んで感じたことは、いずれにせよ、これまで30年近く続いてきた制度にも、変化・進化が必要なタイミングになりつつあるということです。これは紛れもない事実です。それを “撤廃” という表現で報じられたのは、マスコミのミスリードかもしれないけど。要するに、ホームタウン制度の改革という観点で見れば、もう一段変化が必要な時期に来ているのかなと思います。
(神田):当然ながら、日本社会も30年前と比べて今はだいぶ変わっています。ずっと昔の制度のまま来ていたら、それこそ時代錯誤の制度になってしまいます。
(神村): サッカーのためにというよりは、社会のためにどうあるべきかということを各クラブ・J リーグが考えて行動していくことが、求められているのかなと思います。
競技をより盛り上げるための”地域連携”
(神田):では、変化を前提にした上で、今後どのように変化した方が良いのでしょうか。
(神村):まずホームタウン制度は ”地域密着” という概念が根底にあります。この言葉、ややもすると”地域限定”って捉えられてしまうんだよね。
(神田):なるほど。そこで大事になるのが、視野を外に向けるということになるのですね。
(神村):その通り。地方の人口減少のスピードは年々加速していきます。地域密着を叫びながら地域限定の活動ばかりしていると、どんどん経済規模が縮小していきます。だからこそ、地域密着に加えて、”地域連携”がこれからの時代のカギを握っていると考えています。
(神田):神村さんが仰る “地域連携”というのは、物理的には東北とか九州みたいな単位で何か取組を行うということですか。
(神村):地域別に区切ってもいいし、国全体を巻き込んだ施策でも良いと思います。例えば、温泉が有名な全国の都道府県同士でコラボするとか、農業が盛んな地域とか。きっかけは様々あると思いますが、似た者同士やライバル関係にある地域を巻き込んで、それぞれの地域に多くの人が集まることで、地域経済が潤うんじゃないかなと。
(神田):面白そうですね!あとは、海外を見据えた戦略も大事になると思います。
(神村):間違いなく大事だね。特にアジア各国との姉妹都市や提携都市とは、サッカークラブや自治体が主体となり戦略的に施策を進めていくべきです。日本では介護をはじめとする労働力不足は今後より顕著になるので、一つの解決策として、外国人労働者を受け入れることが挙げられます。そうなると、特にアジアとの連携強化を積極的に取り組むべき時が来ていると思います。
まとめ:地域の活性化が日本社会の発展に繋がる!
(神田):今回も先日のニュースを紐解く意味で、J リーグの根幹理念とも言える「ホームタウン制度」を深掘りしてきました。地域の発展がなければマクロ的な意味で国全体の発展もありませんし、コロナ禍を経て尚更、視野を広く持った施策・取組が重要になると思うので、今後が楽しみですね。
(神村):そうだね。そういえば、神田君の地元球団である横浜 DeNA ベイスターズも、今まさに街づくりを進めているそうだね。
(神田):実は、先日からベイスターズ主催のビジネススクールに参加しているんです。スクールのテーマが「スポーツを軸とした横浜のまちづくり・活性化」についてで、参加者は自ら考案したビジネスアイデアを球団側に提出できるので、僕もこれから地元について深く考えていきたいと思います。
(神村):横浜みたいな大都市圏ですら既に取り組み始めているんだから、地方もそれらの取り組みを参考にして、街を盛り上げる努力を後押しするためのホームタウン制度に進化できれば理想ですね。これまでのルールを抜本的に変える必要性が出てくるかもしれませんが、「ホームタウン制度」の進化は、今後スポーツ業界で働く人たちにとって大きなテーマになると感じました。
(神田):そうですね。今週も色んな示唆が得られて僕もホームタウン制度への理解や考えが深まりました。神村さん、今週もありがとうございました!
(文責:神田)