アップロード、ヒトミさんの場合(19)
月暦をめくり、春が終わる
空調の効いた老人ホームには、毎日同じ空気が流れている。入居者さんたちは、外の空気を吸いたいからと、この頃はよく散歩している。空は晴れたり曇ったり、風は冷たかったり生温かったり。もうすぐ春が来る印の強風を、誰もが待ち望んでいるように思われた。
ヒトミさんにはいま、全ての季節に対応できる服が手元にあったが、奈良で篠田さんにもらった重いウールのコートをいつまでも着ていたい気分でもあった。季節が変わることを、何だか少し恐れていた。やっと自分の荷物を取り