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隣の席のおばあちゃんが教えてくれたこと

1年住んだ沖縄から帰る便、
私は1人で窓側に乗っていた。

大好きな沖縄を離れていく様子も、
それを1人で味わう感覚も、
とても寂しい。

適応障害も抱えていたから、
パニックにならないか不安になりつつ
横に視線をやると、
素敵なご老人夫婦が静かに座っていた。
年齢も自身の祖父母と同じくらいで、
かなり安心感がある。

すると通りかかった乗務員さんを
そのおばあちゃんが優しく呼び止めて
「すみません、この飛行機は何名乗りますか?」
と尋ねた。私も答えが少し気になる。

乗務員さんは、
「こちら、当機は514名のお客様にお乗り頂けます。」
と、どこかに忍ばせていた冊子を広げて
指さしながら丁寧にスラスラと説明した。

「まぁ〜〜、そんなに!どうもありがとう」
と感心しながら
小さなメモ帳を鞄のポケットから出して、
嬉しそうにその数字と機種を書き込む。



その純粋で優しいおばあちゃんの言動を見て、
私は何を思ったのか、
おばあちゃんにヒソヒソと話しかけた。

今までの人見知りの私からすると
信じられない行動に内心驚く。
きっと、適応障害になったから
どこかのネジが取れたのだろう。

「これからどこに向かうんですか?」
「網走に帰るのよ〜」
「そこにお住まいなんですね!沖縄はご旅行だったんですか?」
「そう、1度来てみたいと思っていたんだけど、もう歳だし行けるうちに行こうって話になったのよ、ね、あなた」隣のおじいちゃんはうん、とにこやかに頷く。

「へぇ〜素敵!気候や景色も違いました?」
「それがやっぱりぜーんぜん違ったわね、…」

そんな要領で会話が進み、
網走の景色は畑と空が綺麗なこと、
お子さんやお孫さんは離れて暮らしていること、
若い時からコツコツ貯めたお金で
今回楽しく旅行できたこと、
普段のご夫婦と私の生活についてなど、
様々なお話をした。



人生でどん底だった私は
どうしても、
聞きたいことがあった。

「今まで生きてこられた上で、なにか人生のアドバイスを頂けたらすごく嬉しいのですが、、、」

「えぇ〜?私なんかが?そうねー。
でも、色んなことを体験するといい。
私だって今回この歳で初めて沖縄に来て、
本当に良かったと思っているし。
色んなことを体験して、
色んなことを知るのが良いんじゃないかなぁ。」

私は涙が出そうなのを必死に堪えた。

私が経験した苦悩は、
知ることに繋がっていたんだ。
大事な体験だったんだ、と
スッと受け入れることができたから。

その後も、
東京に着くまでずっとおしゃべりをした。
空港に近づくと、
どこに何の建物があるかを教えてあげたり。

「ありがとう、楽しかったわね。気をつけてね」
「私も本当に楽しかったです、ありがとうございました。おばあちゃん達も気をつけて帰って下さいね。」

そうして別れた後も、
今これを書いている時も、
心がぽかぽかしているのを感じた。

いつか網走には行きたいし、
そこでおばあちゃん達に出会えたら嬉しいな。

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