マイクル・ムアコックについて

noteにて、私がどのような作品に触れてきたかについて執筆する第四弾になります。第四弾は、エターナル・チャンピオン(永遠の戦士)シリーズの著者であるマイクル・ムアコック氏になります(今回からタイトルを少し変えました)。


1.はじめに

私がどのような作品に触れてきたかについて執筆することを構想した時点で、最初の三人はアーサー・C・クラーク氏→トム・クランシー氏→那須正幹氏と、順番を含めて決めていたのですが、その次は候補は何人かいました。色々と考えた結果、私が触れてきた「小説以外の媒体」(コンシューマーゲーム)と絡めようと考えた結果、エターナル・チャンピオンシリーズの著者であるマイクル・ムアコック氏を取り上げることとしました。なお、Wikipediaでは"マイケル・ムアコック"と表記されていますが、このnoteでは日本で出版している出版社の一つである早川書房の表記にならって、"マイクル・ムアコック"表記とします。

2.エターナル・チャンピオン、及びエターナル・チャンピオンシリーズについて

元々、マイクル・ムアコック氏は何人かのキャラクター(架空の国である"メルニボネ"の最後の皇帝エルリック、架空の種族である"ヴァドハー"の最後の生き残りである紅衣の公子コルムなど)を主人公とした話を執筆していましたが、エレコーゼというキャラクターを創造した際に、それまでに創造したキャラクターを、エターナル・チャンピオンの化身であると設定しました。そして、各人物は己の人生の記憶のみを所持していますが、エレコーゼのみは(断片的ですが)全ての化身の記憶を所持しているとし、エレコーゼをエターナル・チャンピオンシリーズの中心人物としました(エレコーゼ自身は元々「ジョン・デイカー」という名前の20世紀の地球人でした)。
エターナル・チャンピオンの役割ですが、作中世界では、「法(ロウ)」と「混沌(カオス)」という概念があり、エターナル・チャンピオンの化身は法と混沌のバランスが崩れた際に崩れたバランスを取り戻すために戦うことが役割として宿命づけられています。

3.私が触れてきた作品との接点

3-1.挿絵

日本語版のうち、ハヤカワSFから出版された本の挿絵を天野喜孝氏(旧版と新版の二種類がありますが、旧版の挿絵を担当されていたようです)が担当されていましたが、同氏はファイナルファンタジーのキャラクターデザインもされていたため(そして私がシリーズを何作かプレイしていたため)、本の表紙を見て、ファイナルファンタジーのキャラクターデザインと同じ人だということに気がついたことが本を手に取るきっかけになりました(恐らくですが、日本におけるエターナル・チャンピオンシリーズを語る上で、天野喜孝氏の挿絵の話を抜きに語ることは難しいと思います)。

メルニポネのエルリックに関して、私はこれまでにいくつかすばらしいヴィジュアルを目にしてきた。
(中略)
1970年代には、『エルリック』シリーズのさまざまなヴィジュアルが、主にアメリカを舞台に姿をあらわしはじめた。中でも瞠目させられたのが、P・グレイグ・ラッセル、マイケル・ギルバート、天野 嘉孝(喜孝)、ウォルター・サイモンソン、(中略)
ともかくこれらのアーティストたちは、それぞれの抱く、もの思わしげなアルビノの皇子のイメージを形にしてくれた。

エルリック・サーガ1 ルビーの玉座/魔剣ストームブリンガー(下記のフルカラーのコミック版)
ムアコックよる前書き より

驚いたのは、ムアコック全集ともいうべきゴランツ版のペーパーバックの何冊かに、かつてハヤカワ文庫で刊行された時の天野喜孝のイラストがあらたに表紙として使われていたことだ。このエレコーゼの巻にももちろん旧『永遠の戦士 チャンピオン』版の表紙がついていて、わたしは多元宇宙の双方向性に驚嘆するとともに、ムアコックのヒーローたちがやっとアメコミ的な絵から解放された(だけでなく、輪廻転生における東洋的な両性共有性を認められた)ことをうれしく思った。かれらは神秘的な不朽の肉体をもつ存在などではない。天野の絵があらわしているような、変幻自在の(そして黒の剣という配偶者を持つ)いわばたおやかなヒーローたちなのである。

<永遠の戦士 エレコーゼ1>
黒曜石のなかの不死鳥
訳者あとがき――たおやかなヒーロー―― より
訳者はムアコックの作品の他、多数の英米のファンタジーを翻訳をされている井辻朱美氏です。

3-2.インテリジェンスソード

エターナル・チャンピオンの化身はそれぞれ剣を所持していますが、その中で有名な剣として、エルリックが所持する"ストームブリンガー"という剣があります。この剣は自我を持った剣(インテリジェンスソード)として書かれています。ゲームなどでインテリジェンスソードが出てくる作品がいくつかありますが、その中で、「エストポリス伝記Ⅱ」というゲームで出てきた「デュアルブレード」という剣が自我を持った剣として出てきました。

3-3.属性

先述の通り作中の世界では「法(ロウ)」と「混沌(カオス)」という概念が出てきますが、『"法=善"、"混沌=悪"』という構図ではありません。属性という考え方を取り入れたゲームはいくつかありますが、「タクティクスオウガ」というゲームで出てきた構図は近いと思います。
(少し紛らわしいですが、ここでいう"属性"は"アライメント"という単語が使われることがあり、"人々、生物、社会の持つ倫理上(秩序/混沌軸)と道徳上(善/悪軸)の見地を分類したもの"を指し、"炎・氷・雷・突・斬・打・聖、などというように、攻撃や魔法に代表されるスキル、あるいはアイテム等に用いられるエネルギーの原理を象徴する相性"を指すものではない点に注意が必要です)

3-4.異世界召喚(異世界転生)

エレコーゼが地球から異世界に、さらに別の異世界へと召喚(転生)を繰り返すという描写がありますが、「スーパーロボット大戦」というゲームシリーズにおけるオリジナル(非版権)のロボットアニメとして、「魔装機神サイバスター」が出てきます。ゲーム内の設定では魔装機神("サイバスター"はその中の一体)のパイロットは地球上から召喚されているという設定でした。

4.この作品から受けた影響

この作品から受けた影響としては、インテリジェンスソードのような「知性を持たないとされる存在に宿った知性(この言い方が妥当かは分かりませんが)」への興味が芽生え、そこから発展して人工知能などに対する興味がわいてきたり、『"法=善"、"混沌=悪"』という構図ではない、という部分から「絶対的な善(もしくは悪)」という存在に関しては懐疑的になったり、「善悪二元論」のような単純な構図にはかなり懐疑的になるようになり、人々が個々に個別の価値観を持っている中で、そのような単純な構図が成立するのか?あるいは、そのような単純な構図に落とし込んで考える事自体が危険ではないか?といったように、より踏み込んで考えられるようになり、最終的には多様性ついて考えられるようにもなりました。

5.余談

5-1.エストポリス伝記Ⅱに関して

3で取り上げたゲームのうち、「エストポリス伝記Ⅱ」は特に個人的な思い入れのあるゲームです(フィギュアスケートの羽生結弦選手が2022年にこのゲームについて言及しておられるので、それで名前を知られた方もいらっしゃるかもしれません)。特に音楽が素晴らしく、私がゲームにおいて"演出としての音楽の効果"を意識した作品でもあります。他にも、シナリオ良し、システム良し、やりこみ要素ありと、非常に面白いゲームです。ただ、その当時(「エストポリス伝記Ⅱ」が発売された1995年前後)のコンシューマーゲームはRPGで素晴らしい作品が多く、埋もれてしまった所はあったと思います。それ以外にも色々と思い出もあるゲームですが、現在だと入手の観点から勧められないのが残念です(現行のハードで遊べる訳ではないというのが大きいです)。ちなみに、時系列ではⅡは前作である「エストポリス伝記」の前の話となっており、ⅠのプロローグでⅡのクライマックスに該当する部分の話の一部が出てきます。

5-2.ニンジャスレイヤーについて(2024年1月2日追記)

2024年1月2日現在、サイバーパンク・ニンジャ活劇小説である「ニンジャスレイヤー」のコミック版を読んでいるのですが、「ニンジャスレイヤー・キョート・ヘル・オン・アース」10巻の"ザ・ヴァーティゴ・オブ・ジ・インターミッション"に出てくる"ザ・ヴァーティゴ"というニンジャ(キャラクター)が、以下のようなセリフを発していることに気がつきました。

因果律無視のエターナル・ニンジャ・チャンピオンである俺は
この物語で唯一読者のみんながいることを認識しnjslyrアカウントを乗っ取ることもある

ザ・ヴァーティゴのセリフ
「ニンジャスレイヤー・キョート・ヘル・オン・アース」10巻 ザ・ヴァーティゴ・オブ・ジ・インターミッション より

"エターナル・ニンジャ・チャンピオン"という言葉は、"エターナル・チャンピオン"へのオマージュ(もしくはパロディ)だと感じました。ニンジャスレイヤー自身が、作中の描写から、過去の様々な作品から影響を受けた作品であるように感じており、永遠の戦士(エターナル・チャンピオン)シリーズもその中の一つなのかもしれません。
余談ですが、"ザ・ヴァーティゴ"というニンジャは、いわゆる「第四の壁」(フィクションである演劇内の世界と観客のいる現実世界との境界を表す概念のこと)を破っていますね。

5-3.その他

私は色々なコンテンツ(小説・アニメ・ゲーム、他)を触れているのですが、小説に関しては、このnoteで取り上げたマイクル・ムアコック氏と、第二弾で取り上げたトム・クランシー氏の影響で一時期海外の小説を中心に読んでいた時期がありました(現在は日本の小説も結構読むようになりました。それ以外のアニメ・ゲームなどに関しては、海外の作品に触れることはありましたが、触れた作品は日本の作品が主体でした)。

6.作品紹介

エターナル・チャンピオンシリーズに関しては、「エルリック・サーガ(永遠の戦士エルリック)」が電子化されていますが、他のシリーズが電子化されていないのが残念です(エレコーゼやコルムの話も面白いと思うのですが…)。

永遠の戦士エルリック (全7巻)

2023年11月26日更新:改めて確認したところ、早川書房様より出版されていた「永遠の戦士」シリーズ(永遠の戦士エルリック、永遠の戦士エレコーゼ、永遠の戦士コルム、永遠の戦士フォン・ベック、永遠の戦士ケイン)は全て電子化されていることを確認しましたので内容を更新します。
各シリーズの1巻へのリンクを記載しました。

メルニボネの皇子 Kindle版

黒曜石のなかの不死鳥 永遠の戦士 エレコーゼ (ハヤカワ文庫SF) Kindle版

剣の騎士 永遠の戦士 コルム (ハヤカワ文庫SF) Kindle版

軍犬と世界の痛み 永遠の戦士 フォン・ベック (ハヤカワ文庫SF) Kindle版

野獣の都 永遠の戦士 ケイン (ハヤカワ文庫SF) Kindle版

また、エルリック・サーガに関しては、フルカラーのコミック版が発売されていたため、掲載します。

エルリック・サーガ


7.参考資料

マイケル・ムアコック

エターナル・チャンピオンシリーズ

属性

属性 (ダンジョンズ&ドラゴンズ)


羽生結弦選手「『平成 新・鬼ヶ島』と『エストポリス伝記2』が僕の原点」と語る。最近遊んでいるのは『あつ森』

※余談で羽生結弦選手がエストポリス伝記Ⅱについて触れたことに関する記事

ニンジャスレイヤー

第四の壁

8.追記

8-1.2022年6月26日

項目を追加し、内容を加筆しました。

8-2.2023年11月26日

"6.作品紹介"の欄を更新しました

8-3.2024年1月2日

"5-2.ニンジャスレイヤーについて"を追加しました。

8-4.2024年2月24日

天野喜孝氏の挿絵に言及した部分を更新しました。

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