アーサー・C・クラークについて

 前回、noteにて、どういった小説や本に触れてきたかについて執筆するということを書きましたが、今回はその第一弾になります。第一弾はアーサー・C・クラークの小説です。アイザック・アシモフ、ロバート・A・ハインラインとならぶSF界のビッグスリーの一人で、代表作は、「幼年期の終わり」、「2001年宇宙の旅」などがあります。
 日本ではクラークの作品の多くが翻訳されていますが、その中で、2007年から2009年にかけて、いくつかの作品の新訳版が出ており、それらの作品の影響が大きいです(それ以前にも「2001年宇宙の旅」、「2010年宇宙の旅」などを読んでいました)。

2007年:幼年期の終わり
2008年:楽園の日々―アーサー・C・クラークの回想(自伝的エッセイ)
2009年:都市と星、ザ・ベスト・オブ・アーサー・C・クラーク 1~3(短編・中編・エッセイなどをまとめたもの。最初に売却した作品であり、初期の代表作でもある「太陽系最後の日」、「幼年期の終わり」の原型になった「守護天使」、「2001年宇宙の旅」の原型になった「前哨」などを収録し、巻末には「アーサー・C・クラーク年譜」が収録されています)

 なお、上述の作品のレーベルですが「幼年期の終わり」のみ光文社古典新訳文庫(ハヤカワ文庫SFから出ているものとは若干内容が異なります)で、他は全てハヤカワ文庫SFになります。なお、上述の本はこのnoteを公開した時点では全てKindleにて入手可能な作品になります。

 これらの本の中で、一番印象に残っている本は「都市と星」になります。この本は作品も素晴らしい(主人公が自らの飽くなき探究心、好奇心のおもむくままに閉じられた都市の外へ、そして地球の外へと飛び出していき、そして…、という内容です)ですが、記載された解説に載っていた、「彼はけっして大人にならず、けっして成長することをやめなかった」という言葉に感銘を受けました(確認した所、Kindle版には解説は掲載されていませんでした)。この新訳版はクラークの没後に出版されており、「彼はけっして~」は、クラークの墓に刻まれている墓碑銘である、"He never grew up, and never stopped growing"を訳した言葉になります。クラークが生前から考えていた墓碑銘だそうです(クラークは2008年3月に亡くなっており、そのお墓は、自身が後半生を過ごし、「楽園の泉」の舞台のモデルにもなったスリランカにあります)。「成長をやめない」ということは、現在においても重要であると考えています。PCやスマートフォンのOSやソフトウェアのアップデート(それに伴う機能の追加や変更など)は珍しくはないですし、TwitterなどのSNSで個人が情報の発信や収集がしやすくなったことも環境のアップデートと捉えることができます。また、マイクロソフトの共同創業者であるビル・ゲイツ氏やバラク・オバマ元大統領が絶賛した書籍「FACTFULNESS」の中でも、知識や世界の見方についてのアップデートの重要性を繰り返し説いており、これらの情報を考えても、そういった変化に対応できるように、色々なことをアップデートしていく、ということは重要になると考えています。また、この解説を読むと、「都市と星」は「銀河帝国の崩壊」を作者自身がリメイクした作品であることが書かれていますが、リメイクするに当たり、サイバネティクスを取り入れたことが書かれています。「都市と星」冒頭には、登場人物が<冒険譚(サーガ)>と呼ばれる"三次元的な空間で構成された物語の中に入り込み、中で(ある程度)能動的に動くことが可能な娯楽"についての描写がありますが、改めて読んでみて考えると、この描写はVR空間内に入り込むかのような描写であると感じます。この作品は1956年の作品ですが、この時代にこれだけの描写を書くことができるというのは、例え、文字だけの描写だったとしても、驚嘆すべき話ではないかと思います。
 また、私の作品のいくつかにも影響を与えています。私は未来の世界を舞台にした作品をいくつか投稿しているのですが、そのうち「初音ミクとパラダイムシフト」シリーズはテーマが「幼年期の終わり」の、主人公が「都市と星」の影響を受けています。また、自伝的エッセイである「楽園の日々」の中で、第二次世界大戦当時、科学技術者と共に当時の最先端の技術だった着陸誘導管制用レーダーに関する仕事を行うという、SF作家として非常に創作意欲を刺激される環境で働いており、実際に開発の合間を縫って「太陽系最後の日」などの作品を執筆していたことが書かれています。私は以前、『「引きこもりを加速する」から生まれた「サイバスフィアフローズ」 』で、clusterのイベントに参加しながらVR空間内の描写を考えたことを書きましたが、clusterを含めたVRのサービスは、私にとって非常に創作意欲を刺激される環境で、そこは似ていると感じます。一方で技術や技術情報へのアクセスには大きな差があると考えています。私が「サイバスフィアフローズ」を書いたときは、VR関係のサービスやデバイスに触れることはそれほど難しくなく、VRに関わる人々とVR空間の中やSNSを通じて直に接することができる環境下でした。一方、第二次世界大戦当時、恐らくレーダー関係の技術自体は軍事機密に関わるような情報で、誰でも触れることができる技術ではなかったと考えられますし、SNSはおろか、インターネットすらなかったことを考えると、そこは大きな差があると思っています。

「引きこもりを加速する」から生まれた「サイバスフィアフローズ」

https://note.com/m_hayase256/n/nf849b4586ca0

 さらに、「楽園の日々」を読むと、クラークは、アメリカにおいてSFの全盛期とされる1940年代当時、SF雑誌「アスタウンディング・サイエンスフィクション」(何度か雑誌名を改名しており、現在は「アナログ・サイエンス・フィクション・アンド・ファクト」という名前になっています)の熱心な読者であったことがうかがえます。この雑誌には、上述のアイザック・アシモフ、ロバート・A・ハインラインの他、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの「狂気の山脈にて」が掲載されていたり(クラークは1946年にデビューしていますが、それ以前にもファンジンに小説を投稿しており、その中に「狂気の山脈にて」のパロディ小説である「陰気な山脈にて」という作品があります)、「アスタウンディング・サイエンスフィクション」の編集者で、アイザック・アシモフ、ロバート・A・ハインラインらを発掘したジョン・W・キャンベル、アポロ計画の中心的人物だったヴェルナー・フォン・ブラウンなどのロケット関係の人物も登場しており、当時のアメリカを中心としたSFの熱気などもうかがえる内容になっています(他にも多数の人物が出てきますが、多すぎる上に補足説明をつけるとさらに長くなるので割愛します)。
 それ以外にも、クラーク自身が公務員として働いていた時のエピソードも書かれています。イギリスの大蔵省で教師の年金を監査する仕事をしていた時は、自分に割り当てられていた仕事を一時間程度で済ませ(どのようにして一時間程度で済ませていたかは書いてあるのですがここでは伏せます)、残りの一日をもっと重要な用事に振り向けていたことが書かれています。

 また、劉慈欣氏の「三体」を紹介したnoteの記事で、クラークの名前が出ていたのですが、読んでみると確かに作風はクラークに似ていると感じました。

参考:【速報】中国SFの雄、劉慈欣『三体』ついに2019年早川書房より刊行決定
https://www.hayakawabooks.com/n/n2b01e00e07a1


 上述の文章を書いた後、NHKテキストより、クラークの作品を紹介した雑誌として、「NHK 100分 de 名著 『アーサー・C・クラーク スペシャル』 2020年 3月 」が出版されているのを見つけ、購入しました。講師を務められているのは、「パラサイト・イヴ」の著者でもある瀬名秀明氏です。

「アーサー・C・クラーク」スペシャル 2020年3月  
https://www.nhk-book.co.jp/detail/000062231092020.html

この本にはこのnoteで取り上げた、「太陽系最後の日」、「幼年期の終わり」、「都市と星」に加え、軌道エレベータを取り扱った、「楽園の泉」が取り上げられています。作品の解説と共に、作品や著者であるクラーク自身の背景なども書かれています。例えば、「太陽系最後の日」は日本のSF雑誌である、「SFマガジン」の創刊号に掲載され、小松左京氏がこの雑誌に掲載されていたこの作品を含めたいくつかの作品を読んだことが、SFを志すきっかけになったことが書かれています。また、クラークは、「指輪物語」の著者であるJ・R・R・トールキンや、「ナルニア国物語」の著者であるC・S・ルイスの著作を読んでいたことが書かれており、「都市と星」を「銀河帝国の崩壊」から改稿する際に参考にした書籍がトールキンの「指輪物語」であることが書かれています(ちなみに、二人とオックスフォードのパブにて宇宙飛行の是非について議論を交わしたこともあり、正確な時期は不明ですが、先述の「アーサー・C・クラーク年譜」を見る限りでは1948年だと考えられます)。また、「楽園の日々」にも、「魔法使いの弟子」(1926年)の著者であるロード・ダンセイニと会い、サインをもらう下りが書かれています。私は、ブリティッシュ・ファンタジーを読んでいたことがクラークの作風に現れていると感じます。これ以外にも、様々な背景に触れられていています。読みやすいので、上述の作品を読んだことのある方や、クラークに興味はあるが、読んだことのないという方にはおすすめだと思います。

(2020/2/3追記)内容の補足と追加を行いました。

(2020/3/18追記)内容を追加しました。

(2020/6/6追記)内容を追加しました。

(2020/6/13追記)内容を追加と一部修正を行いました。

(2021/1/15追記)内容を追加と一部修正を行いました。

(2021/7/16追記)内容を追加しました。

(2022/8/2追記)タイトルを変更しました。

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