成功への第一歩!アンティークコイン投資・国の知識を深めよう「スイス編②」
みなさんごきげんよう、アンティークコイン投資家の葉山満です。
前回はスイスの独立運動の頃の話までお伝えしました、今回は三十年戦争以降のお話をお伝えします。
三十年戦争とスイスの独立
16世紀に入ると、西ヨーロッパ全体で宗教革命が起こり、キリスト教世界は分断されていきました。スイスでも同様でしたが、特に歴史に大きな影響を与えたのが、ドイツを起点とする三十年戦争です。スイス人の傭兵も用いられ、スウェーデン軍やフランス軍に加わっていました。
しかしヨーロッパ諸国が三十年戦争に介入するようになると、ドイツと地理的に近いスイスも危機にさらされます。外国の侵攻から自分たちの地域を守るため、 スイス盟約者同盟団は外国に対して中立を表明し、武装中立の立場を取りました。現在のスイスの永世中立国の原点とも言える出来事です。
(画像:ウェストファリア会議)
三十年戦争が終結すると、1648年のウェストファリア条約によってスイスの独立が国際的に認められました。前回「1389年には実質的には独立した」と解説しましたが、国際的に承認されるまでには約300年近い年月がかかったのです。
キリストの生誕 バーゼル 2ダカット金貨
独立が認められてから作られたスイスのコインで特に人気があるのが、バーゼルの都市景観が刻まれた2ダカット金貨です。1680年から1700年まで発行されました。
このコインは、数十万円から100万円程度で取引されることも珍しくありません。非常に人気が高いスイスのコインです。スイスはドイツと近かったこともあって、ドイツと同様に都市景観を描いたコインが数多く存在しているのですが、このコインは特に人気があります。
表面には幼いキリストと聖母マリア、キリストの誕生を祝う3人の賢者が描かれています。キリスト生誕がモチーフになっているため、このコインは「クリスマスダカット」と呼ばれることもあります。
バーゼルはライン川が流れるスイス北西部の街で、フランスとドイツの国境にあたります。現在はスイスで3番目に大きな都市で、歴史的な街並みが観光客にも人気です。芸術が発展したことでも知られており、ヨーロッパ最古の公立美術館と言われるバーゼル美術館もあります。
14世紀から貨幣の製造を行っていることもあり、他のコインにもバーゼルの都市景観が刻まれることがありました。
永世中立国へ
1789年起きたフランス革命の影響は、スイスへも波及しました。各地で蜂起が起こる中、1795年からはフランス軍とオーストリア軍がスイスに出兵し、戦場となります。1798年にはフランスの総裁政府の後押しで、より中央集権的な国家であるヘルヴェティア共和国が成立しました。上述したように、「ヘルヴェティア」とはローマ帝国の頃にスイスの地に住んでいたヘルウェティイ族に由来しています。
フランスに統治される形となったため、このときスイスは中立を手放すことになります。また、政治体制も連邦体制ではなく中央集権体制となったため、反発が起こりました。総裁政府との衝突や、内部での急進派と穏健派の対立があって、共和国はなかなか安定しませんでした。
その後、ナポレオンが1802年にスイスの各州の独立を保証しました。これによってヘルヴェティア共和国は崩壊となります。
永世中立国となったのは、1815年のことです。ナポレオンの没後、1815年のウィーン議定書において、スイスが22の州からなる連邦国家であり、永世中立国となることが承認されました。ドイツやフランスといったヨーロッパの強国の間に挟まるスイスは緩衝地帯であり、中立の立場で安定することは他国にとっても好都合でした。
第一次世界大戦とスイス
永世中立国であるスイスは、第一次世界大戦にも第二次世界大戦にも参加していません。しかし、政治や経済は大戦の影響を大きく受けました。戦争が無ければ豊かになれるとも限らないのです。
スイスは観光業に依存していたため、石炭などの資源を確保するために同盟国とも連合国とも交渉しなければなりませんでした。食品の輸入も途絶えたため配給制が導入されるものの、価格が高騰して貧困層の生活が苦しくなり、情勢は不安定になります。
また、スイス国内にはドイツ語圏とフランス語圏があるのですが、両者の緊張も高まりました。ドイツ語圏はドイツ寄りの見方が、フランス語圏はフランス寄りの見方が主流になってしまうためです。
とはいえ戦争に巻き込まれることはなく、第一次世界大戦は終結します。人類最初の国際紛争調停機関として設立された国際連盟の本部は、スイスのジュネーヴに置かれることになりました。
1925年 アルプスと少女 100スイスフラン金貨
スイスのコインの中で最も人気があると言っても過言ではないのが、通称「ブレネリ」という金貨です。表面には女神を表す少女の横顔とアルプス山脈、エーデルワイスの花が描かれた、とてもスイスらしいコインです。裏面にはスイスを象徴する十字と、こちらもスイスを象徴するアルペンローゼ、エンツィアンの2種類の花が描かれています。
表面には「HELVETIA」と刻まれているのも良いですよね。ヘルヴェティアの名前はスイスの歴史を象徴していますし、どの言語もひいきしないので国家のまとまりを表しているようでもあります。
ブレネリは1925年の単年発行であることに加え、わずか5000枚しか発行されていません。その希少性から、数百万円で取引されることも珍しくありません。希少性も人気も兼ね備えたコインとなっています。
第二次世界大戦とスイス
1939年、ドイツがポーランドに侵攻し、第二次世界大戦が勃発しました。スイスは中立を貫く宣言を出していましたが、1940年にはフランスも降伏し、スイスはドイツら枢軸国に包囲される形となりました。武装中立をドイツに対して宣言することで、ドイツの侵攻を回避したのですが、国民は大きなパニックの最中にありました。
枢軸国に囲まれてしまったため、スイスは枢軸国と貿易せざるを得ず、ドイツとの貿易によって経済を保っていました。また、迫害されるユダヤ人の亡命を認めなかったりしています。
スイスの歴史からは、中立を守る難しさを学ぶことができます。自分たちが戦争に不干渉の立場を貫いても、身の回りで戦争が起これば無関係ではいられず、回りまわって片棒を担ぐような結果になってしまうこともあるからです。第二次世界大戦下のスイスの立ち回りには自国防衛の難しさを読み取ることができ、憲法で戦争を放棄している日本も学ぶことがあるのではないでしょうか。
戦後のスイス
大戦を無傷で切り抜けたスイスは、終戦後に大きな経済成長を遂げました。所得や生活水準が向上し、多くの外国人労働者が移住する国になりました。
中立性を脅かされない範囲で、国際機関にも加盟しています。ちなみに国連に正式加盟したのは2002年のことで、意外と最近です。国連のヨーロッパ本部はジュネーヴに置かれたのにも関わらず、最近まで加盟していなかったなんて驚きますよね。
(画像:ジュネーブの町並みとレマン湖(ジュネーブ湖))
なぜ国連に加盟していなかったのかというと、国連は第二次世界大戦中に連合国によって設立されたためです。中立を維持しており、スイスは連合国に加わっていませんでした。その中立性は国際的にも評価されており、冷戦時代にもジュネーヴは交渉の場として重宝されてきました。
なお、2020年現在、スイスはEUには加盟していません。ヨーロッパがEUによってまとまると、安全保障や経済の面でスイスが孤立してしまう可能性があるため、基本的には加盟を目指す方向です。
しかし、イギリスがEUから離脱することが決定し、他の国でも離脱派の声が大きくなりつつあります。スイス国内でも意見が流動的になる可能性もありますし、ヨーロッパ情勢には今後も注目していく必要があります。
まとめ
スイスのコインと歴史について解説してきました。永世中立国として有名ですが、中立の歴史の長さは意外と知られていません。
スイスのアンティークコインには、「ブレネリ」やウィリアム・テル、ヘルヴェティアなどスイスを象徴するモチーフが刻まれているものが多いです。手に取るだけでスイスの歴史を感じられるロマンがあるコインなので、コレクションする際は歴史も学びながら集めていくのがおすすめです。
みなさんにアンティークコインで幸あれ!
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