エンタメコンテンツを利用した地域活性化(聖地巡礼編)
聖地巡礼という言葉が宗教的な文脈を離れて使われるようになったのはいつからだろうか。
現在ではエンタメ分野、観光の文脈で使われ、ドラマ、映画のロケ地、漫画、アニメのモデルとなった土地やゆかりのある場所にファンが訪れる行為をいう。
聖地巡礼について、歴史、類型と担当者の心構え、近年の事例について改めて考えてみたい。
聖地巡礼の歴史
「聖地巡礼」という言葉ではなかったものの、ロケツーリズムは昔から日本に根ざしていた。
映像作品が実際に撮られた場所だけに留まらず、大河ドラマでは、過去の偉人が過ごしたゆかりの地を巡る行動も見られ、観光と映像作品は密接に結びついていた。
アニメの聖地巡礼(舞台巡り)として火付け役になったのは2007年に放映された「らき☆すた」の埼玉県鷺宮神社だろう。
聖地が神社ということもあり、キャラクターのイラストを描いた絵馬をファンが自発的に奉納したり、地元商工会とファン、版元が協力し、祭りを企画したりと、地域一体となって聖地化に注力した好例である。
それを皮切りに、アニメコンテンツは聖地巡礼を意識して制作されるようになった。
聖地巡礼の類型について
聖地巡礼には大きく分けて3つのパターンがある。
①自治体主導でプロモーションを行う
②ファン主導でプロモーションを行う
③制作委員会主導でプロモーションを行う
①の場合、近隣の自治体及び商工会が中心となって、イベント等を企画し、ファンの呼び込みが行われる。
イベントのための予算取りも行われて、それなりの資金が投入され、「祭り化」されるのが①のパターンである。
②の場合、ファン主導のプロモーション、すなわちSNSを含む口コミで拡散された情報を元にファンが聖地へと集う。
特にイベント等も用意されていないため、ファンは実際の風景や、建物などの写真を撮影し、SNSやブログに投稿する。
マイナー作品が該当する場合や、余力のない自治体が該当する場合が多く、「物語の登場人物が存在していたかもしれない空間の共有」が行動原理となり、聖地巡礼をする。大半は②のパターン。
③の場合は、コンテンツの制作会社が聖地作りを積極的に行うため、キャラクターなどのグッズコラボや、イベントが容易であり、大きなお金が動く。そのため規模の大きなイベントが開催され、人の流れが生まれやすい。
沼津の「ラブライブ!サンシャイン!!」や大洗の「ガールズ&パンツァー」が良い例だ。
地元自治体、制作会社、ファンとの関係が良好であるため、継続した企画が生まれやすい環境が作られる。
制作委員会が絡まない場合、①、②はキャラクターなどの版権画やタイトルネームは原則使用できないため、注意が必要であり、作品のブランド毀損に繋がるようなプロモーションの手法はしてはならない。
よっぽどのことがない限り、制作委員会側も不必要に揉める必要はないため、訴訟などには発展しないが、あくまでグレーゾーンであるため、企画担当者はそのことを肝に銘じておかねばならない。
近年の事例
近年見られるのは事例として、3次元コンテンツの台頭である。
地元、岐阜の事例になるが、毎年11月の第一土日に開催される「ぎふ信長まつり」では、令和4年開催時に木村拓哉さんと伊藤英明さんが岐阜市内に訪れた。
映画「レジェンド&バタフライ」の宣伝、販促もあり、このような夢のキャスティングが実現された。
木村さんと伊藤さんが市内を巡り歩くパレードの観覧申し込みは市の人口の2倍以上になり、全国ニュースになるほどの盛り上がりだった。
その際に、木村さんと伊藤さんが訪れた岐阜城や、老舗のベトコンラーメンの店舗は一部ファンの間では「聖地」とされている。
「この場所に木村さんと伊藤さんが訪れて過ごした」という逸話(ストーリー)が土地につき、拡散され、ファンが集うようになったからである。
ぎふ信長まつりが終わって2月以上経つが、柳ケ瀬商店街では横断幕がかかげられ、地域全体で映画の宣伝・販促に取り組んでいる。
地域全体を巻き込んだ映画プロモーションという面で考えれば、映画制作委員会としてもこの上ない効果をあげられたのではなかろうか。
このような外からの来訪者がその土地を訪れ、そのストーリーが土地につく聖地巡礼のあり方は本来の宗教的な意味で用いられる聖地巡礼に意味合いが近く、原点回帰とも言えるだろう。
SNSが普及した今、誰もがストーリーの語り手となれるため、このような土地にストーリーが付加された聖地巡礼は今後どんどん増えるだろう。
その際、一担当者として必要であるのは「如何にして魅力的なストーリーをわかりやすくファンに伝えるか」である。
動画メディア、文字メディアを使用し、ときには来訪者へのインタビューや、サインなどわかりやすい足跡を残してもらう、などの効果的なストーリーつくりが必要である。