ユニバーサルデザインタクシー(UDタクシー)について、元タクドラから見た事情をお伝えします!
■はじめに
こんにちは。元タクシードライバー、花倉みだれです。
とはいえ、職歴としては汚点ですし「この期間に獲得したバリューはなんですか?」とか言われても「続けても得るものが何もないと確信したから辞めたんです」としか本音ベースでは言いようがありません。
正直トリミングしたい経歴ですが、この期間に得た知見を少しでもアウトプットして相殺していきたいところです。
今回は、昨今じわじわ増えている「ユニバーサルデザイン(以下UD)タクシー」のお話を、ユーザー目線・ドライバー目線それぞれからお話したいと思います。
私がいた会社はUDタクシーの導入に非常に消極的な姿勢(それでも数台はありましたが……)だったこともあり自分で営業したことはないですが、概要は研修で聞きましたし、ドライバーの愚痴などは避けても耳に入ってしまうので全くの一般人よりは多少詳しいのではないかと思います。
■UDタクシーとは
国交省だか関東運輸局だかのホームページもありますしWikiに項目もあったのでそれを見るのが一番早いのかと思うのですが、要するに「世界基準でどんな人間でも快適に乗ることのできる設計のタクシー」といったところです。
神奈川県タクシー協会webページより( http://www.taxi-kanagawa.or.jp/various/category/3 )
最近、こういうボックス系のタクシーを見ることが以前と比べて増えてきたのではないでしょうか。
これがUDタクシーです。
特徴は先ほどのページに書いてありました。
UDタクシーだからできること
ユニバーサルデザインタクシーだからできること
■大きな荷物を持った方も
■たくさんの荷物を持った方も
■セダンに乗りにくい服装の方も
■入退院の際の移動に困った方も
■車いすの方も
■小さな子ども連れの方も
■妊娠中の方も
UDタクシー紹介ページ(https://wwwtb.mlit.go.jp/kanto/jidou_koutu/tabi2/ud-taxi/index.html)より
広いですし、大きい荷物も積みやすいですし、素晴らしい車両ですね。
気になるお値段ですが、通常のタクシーと同じです。
こんなに立派で、セダンのタクシーと比較して新しそうなのにお値段据え置きです。順番回ってきたり拾えそうだったら遠慮なく拾ってしまいましょう。
なんかぼったくられるのでは? 健常者が乗ってはいけないのでは? などと思ってしまいがちなところではありますが、全然そんな意識は必要ありません。
UDタクシー紹介ページ(https://wwwtb.mlit.go.jp/kanto/jidou_koutu/tabi2/ud-taxi/index.html)より
■ドライバーから見たUDタクシー
ではこのUDタクシー、ドライバー目線で見た時にどうかと言うと、基本的にはものすごく人気がありません。
導入当初は顕著でしたし、今でもそういう意識の方は多いかと思いますが、まず「普通のタクシーと同じ運賃」という認識があまり浸透していない状況があります。
特に流しで拾って営業するスタイルのエリアやドライバーや会社であれば、遠慮されてしまうというのはとても大きなデメリットになります。営業機会を損失するわけですからね。
次に、UDタクシーはビジネスシーンでの人気がありません。
ビジネスシーンで利用されるタクシーは、体感ではほぼ100%黒塗りのセダンです。
無線で配車がある時もそのように指定されますし、普通の会社カラーのセダンですら敬遠されます。ボックスタイプなんてビジネスマナーや接待の文脈では選択肢にすらあがらないでしょう。手があがることはないと考えて間違いありません。
言うまでもないことかもしれませんが、ビジネスシーンでご利用されるお客様は大抵ドライバー目線ではとてもありがたいお客様です。チケットご利用であれば距離や時間を気にせずご利用いただけますからね。
こういった営業機会を損失する車をあえて選ぼう、という心理がドライバーには働きません。
次に、UDタクシーの乗客はどうしても身体的ハンデが大きめのお客様の比率が高くなります。
通常のタクシーの乗客から敬遠されている状況がそれを加速させてしまっていますね。
これを嫌がるのは本当に公共交通機関の担い手として考えるとクズ中のクズみたいなメンタルで業界のどうしようもないヒドイ構造を思って嫌になってしまいますが、ドライバー目線で考えるとあえてこの特徴を選ぶメリットがないのもまた事実です。(かといって、現在ご利用中の方は遠慮する必要なんてありません。全部業界の体質が悪いのです)
セダンであってもそうですが、多少のハンデを抱えていらっしゃるお客様であれば荷物の持ち運びや乗降のお手伝いくらいは当然します(しないドライバーも多いですけどね……)。
しなかったとしても、バリバリ健常者の大学生とかと比較して乗降にかかる時間はかかってしまうものです。
かつ、そういった方の乗車距離というのは、意外と短めなことが多い傾向にあります。自宅-最寄りのスーパーやデイサービス等、ワンメーター内に収まりがちです。
車から降りての接客など、余計な手間がかかるうえ、拘束時間が長く、かつ儲からない。これが平均的なタクシードライバーからみた障害者の乗客に対する本音であることは隠しようがない事実だと思います(会社によっては、手帳や福祉券などの事務作業や手数料などでより強く敬遠されることもあるでしょう)。
こういう構造は本当に嫌になってしまいますし「稼ごう」という意識が薄ければ別に気にならないものでもあります。私は大金稼ぐという大志でドライバーになったわけではなかったので、天に誓ってお客様差別などはしていませんでしたし、あらゆるお客様が神様だと思っていましたよ。(だって、電車だったら30とか50キロとか移動できる運賃を2kmの移動で使ってくれるとか普通に考えて貴重じゃないですか……)
……ということは、センシティブな話題なので繰り返し強調させていただきたいところです。
あくまで、ドライバー間で人気がない理由の解説です。
次に、前項と若干矛盾するようですが、意外と高齢者などからもセダン人気が高い(ボックスが不人気)こともあげられます。
せっかく高齢者などにも優しい設計! で売っているのに、その高齢者たちへのアピールが一部届いていない節を感じます。
よく言われたのが「セダンは足場が低くて、車高も低くて安心するし、ボックスの車と比較して乗降しやすい」といった理由でした。
UD車をスルーして呼ばれたりすることもしょっちゅうあり、なんだかなぁと思ったりしたものです。
これは若干余談ですが、バカにできない理由として「洗車が面倒」というのもあげられるかもしれません。
洗車は基本営業時間外で、帰庫後に同僚からの圧力でサービスでやらされるものです。
通常の車と勝手が違い、面積が単純に大きいUD車はこの観点からも避けられそうです。
まとめると、
「現状の認知度では客層がセダンと比較して変わってしまううえ、それが営業上得する特徴でもないことから、ドライバー人気が低い」
ということです。
■会社から見たUDタクシー
「オリンピックまでに所有者の半数の車をUDデザインにしよう」みたいな取り決めを大手企業間で決めた……というのが私がいた頃(数年前)の状況でしたが、現在でも全体としては増やしていこう、という方向性ではあるようですね。
ただ「半数をUDデザインに」は少し外を歩けばわかるくらい全然未達でしょうから、きっと下方修正に下方修正を重ねているところなのかなと推察します。
このUDデザインのタクシー比率、外を歩いて目にする時はどの企業なのか注目してよく見ているのですが、明らかに大手企業のほうが多い傾向にあります。
具体的に言うなら、日本交通が一番積極的なのでは……? という印象です。
比較的「外向けのイメージ戦略を持っていて、ドライバーの教育もできていて、悪い意味での労働者の声が大きくなく、資金繰りもちゃんとできている会社」
がこのUDタクシーの比率を高める努力をしていることになると思います。
グループとして考えるなら、大手企業の中でも、私鉄系は比率としてものすごくUDタクシーの導入に消極的で少ないように見えます。
これはきっと、伝統的に労組はじめ労働者の声が大きく、経営陣が鉄道組の天下りで失点を防ぎながら任期を終えることに意識が向きがちな体制に起因するのでは……? と考えられます。
先ほどご説明した通り、ドライバー目線では自社がUDタクシーを積極的に導入することは阻止しようとする力を働かせるかと思いますので。
企業の所有者に対するUDタクシーの比率は、車を導入できる企業としての体力の有無、ドライバーと経営陣の声の大きさのバランスなんかを推測する一つの材料になると考えます。
そうやって見てみると少し面白い……かもしれません。
■客から見たUDタクシー
●勘違いしやすいポイント
・料金は通常のセダンと同様
●メリット
・車が比較的新しい傾向
・好みはあるものの、一般的には乗り心地もセダンより良さそう。
・身体的ハンデ等がある場合は基本的にはセダンより快適に乗れる
……だけですめばよいのですが、デメリット部分が一概に言えないところです。
「羽田につけているドライバーの99%はクソ」みたいに言い切れるほど、画一的な特徴がドライバーにあるわけではないと思います。
「セダンに乗りそこねたドライバー」「ローテーションで渋々やっているドライバー」
といったタイプに当たってしまうと、まぁまぁ機嫌悪く辛く当たられる可能性が高いです。
いらすと屋様より『乱暴なタクシーの乗客のイラスト』ですが、『乱暴なタクシー乗務員』のイラストはないんですよね。現実はお客様よりドライバーのほうがひどいものだと思うのですが……。
繰り返しますが、接客業や公共交通期間の担い手、ライフラインとしての自覚などをしっかり持っていない、ただ自分が働ける稼げる仕事をしたいといった人種は、基本的にUDタクシーには乗りたがりません。
つまり、その会社にそれと真逆のパーソナリティ「接客業や公共交通機関の担い手、ライフラインとしての自覚をしっかり持ち、やりがい重視で仕事に当たる」人間がいた場合、優先的にUDタクシーのハンドルを持っている可能性が高いです。押し付け合うものですから、UDタクシーを進んでやりたい人を阻止する理由がありません。
あるいは、そういったドライバーの事情を汲んだ給与設定などをしっかり行い、営業成績以外の接客反響などをインセンティブに組み込んでいる会社などがあれば事情は変わってきてしまいます。
そんな聖人君子なドライバーも、まともなタクシー会社も概ね存在しないだろうと踏んではいますが、良心と、微かに残った期待感が、それが0であると言うことを阻んでいます。
「可能性は低いが猛烈にすごくいい感じのドライバーにあたる可能性もあるギャンブルで、値段は普通の車と同じで、ちょっと新し目でいい感じのタクシー」
これを、私から提示できる、客から見たUDタクシーの特徴としてまとめさせていただきます。
■終わりに
私がいたタクシー会社は労組の声が絶望的に大きく、経営陣・監督層の日和見保守感が絶望的に伝わってくるところだったので、UDタクシーについてはものすごく導入に消極的な姿勢でした。正直、ガッカリしたものです。
資金繰り等で導入できない、とかでもなく、現場の声に左右されてしまうのか……と。
現場でも、基本的に押し付け合いでした。営業成績トップの人は基本的に黒塗りセダンで一ヶ月乗り切った人です。
「現場の声が大きい・通りやすい」
ということはよく企業体質で美点とされがちではありますが、通り過ぎるのもどうなんだろう……時々はリーダーシップを発揮してほしいものだな、と思ったものです。
そんなことを思い出しつつ、未だにUDタクシーを値段的な怖さから避けがちな人を目にするので、お金的な怖さは少なくともないよ! ということだけでも伝わればいいのかなぁ、と思います。