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男性の父性•イヤなことはイヤ
付き合う前には、親しみやすく。
彼女になってからは、自由に。
婚約者になってからは、すこしワガママに。
彼と私の間に、婚姻を妨げる大きな問題はない。年齢的にも、状況的にも。
知り合ったばかりなので
入籍のタイミングは決めてあるというだけ。
彼はお気に入りのフレーズがある。
「俺の嫁さんは」「俺の奥さん」とか。
「九州に嫁に来る」とか。
まだ入籍はしていないよ、と可愛げのない指摘はしない。放っておいている。
けれど聞き捨てならないことばもたまにある。
料理に関すること。
「今からそんなんじゃ、結婚してからも結局俺が料理とかやらされそう」とか
「君のワガママは結婚してから5年も経てば、尻をかきながら顎で使うようになりそう」とか、とか。
ワガママに振り回されているけど頑張っちゃうオレのなかに、僅かに見え隠れする不安や不満を私は感じ取る。
確かに、私は料理上手ではないしこだわらない。
裁縫はできないし、掃除だけはきちんとやるだけで全く家庭的ではない。現段階で。
それであんまりしつこい時にはスパッと一撃お見舞いする。
「入籍前から料理振る舞ってくれて、結婚後も不安ない人と付き合うことだね。もしかしたら私は口だけで料理出来ないかも。でもどーしても君と結婚したいって人としかしたくないから。無理にしなくて結構。」
彼は黙る。そして慌てる。
「嫌だ。俺は君と結婚するんだ。」
「どうかねえ。」
私はニヤニヤする。
この日、彼は私に買ってくるプリンについて
「最近膝を傷めて運動してないんだから、食べすぎたら太るよ。」と発言し私の機嫌を損ねていた。そう思うなら買ってこなければいいのに。
でも、これから年末年始にかけて食事には気をつけるべきだなと私は思い直し
夜ごはんを減らし、間食もせずプリンもいらないと言った。
「どうして?拗ねてるの?」「俺のせい?」
と慌てる彼に「違うよ」と本当を伝えても信じて貰えなかった。
チョコレートやゼリーを持ってきては「なんで?いつもは食べるのに。」
と言う彼に私は首をふる。
「気分じゃない時もあるよ、気持ちだけ貰っておく。ありがとう。」
彼はショックを受ける。彼自身が望んだことなのに、私は意味がわからない。
私は甘党だが、ある程度食べると飽きるので
全く間食しない周期というのが生まれる。
たぶん身体が調整しているのだ。これ以上食べたらアカンで、ダイエットせなと。
そのきっかけを彼が作ったというだけ。
「君は太ってない。セクシーだよ。」
慣れない褒め言葉を一生懸命捻り出す彼に、私は笑い出す。
「ありがとう。あなたもね。」
オロオロする彼が不憫で、仕方なくチョコだらけをひとつ食べた。一緒に。
それで言う。
「女性に体型や見た目、食生活に関することは言わない方がいいよ。」
彼は答える。ばか正直に。
「でも、言わないとわからないじゃないか。」
「それは違う。自分で分かってるよ。先回りして言ってくれたんだとしても
言われた方は今すぐ痩せろって言われたんだと勘違いするよ。あなたにそんなつもりがなくても。」
彼は唸る。
そんなつもりはなかった、と。
「だから発言には気を遣ってよ。気にしちゃうよ。私も、言ったあなたもね。」
男性の父性の出方は人それぞれだが
おせっかいが出るとこじれることがある。
私はそれがイヤなので
時折こうして伝えるようにしている。