スパダリの思わぬ告白
「昨日と今日、がまんしたよ」
唐突に彼は言った。
早上がりの日で、私達はバイクに乗っていた。
私は笑って言った。
「昨日か、そういう日もあるよね。」
彼は私とセックスがしたかったらしい。
なんとなく彼がしたそうにしているのは分かっていたけれど
「睡眠のリズムが崩れるのはヤだから」と言って
いつもの就寝時間まで、ふたりでプリンを食べたりアイスを食べたり
彼が淹れた濃いお茶を飲みながら
YouTubeを見て夜更かしをした。
私もしたかった。
でも、断られそうな気がしていた。
コンディションとやらが万全でないとかなんとかで。
断られたら、きっと涙が溢れてしまうだろうと思った。
気にしていないふりをしても、彼には伝わってしまうから
機会をお互いに与えないように
そうやって楽しく夜更かしをしたのだ。
モヤモヤとする方が、胸が痛んで相手を傷つけるよりマシだと思った。
彼は寒さで縮こまってしまって、1人でしようにもできなかったと笑った。
私は背中を叩いて笑う。
彼は、セックスをしなくても
朝ごはん用におにぎりを
昼食にお弁当も作ってくれた。
駅まで送り、帰りにはこの寒空の下
私の分の防寒着とヘルメットを背負って迎えにきてくれた。
寒くない?トイレは?
夜ご飯はなにがいい?
そういえばこのニュースさ…
彼の主語は、君だ。
まるで父親が娘のために手を焼くよう。
ヘルメット越しの、風を切る横顔は
夕焼けに照らされてとてもかっこいい。
私は信号待ちでぎゆっと抱きつく。
「早く帰ってハグしたい。」
「もうしてるやん。」
私達はまた、笑った。
彼はもう、私の性欲の対象ではない。
かけがえのない、愛すべきパートナーだから。
「行ってきますのチュー忘れたなあ」
私は二の腕をつんつんする。
彼はおどけて、わざわざグローブを外し指を絡めた。
ヘルメットも、ロシェも、うどんも。
重いものを車道側に持って。