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ど本命彼氏と転職、将来のこと
なにがあるかは、わからない。
私は私の人生がある─と、ずっと言っている。
自分に対して、彼に対して。
人事部長に、退職でなく異動で検討し直して欲しいと勧められた彼は頭を悩ませていた。
私は部長の意見に賛成だったが、その意見を伝えた上で彼の意見にも賛同した。
「辞めるのはいつでも出来るとはいえ無駄な時間を過ごしたくない。今の会社は自分と別の方向を向いている。九州に帰った時に役に立たない。」
と彼は言う。
殆ど退職ということで気持ちが固まっているのだ。私には相談ではなく、報告として話しているだけだと理解した。
「君との将来も考えたうえで、他に移るなら早い方がいい。もちろん転職には時間がかかるかもしれないが君には甘えたくないから嘱託の仕事をまた始める、それで転職する。」
私は傾聴し、その上で起こりうる様々なリスクを話した。
「帰ったときはどうにかなる。稼ぐ必要はない、私も働いているから。メンタルにストレスがかからない方法であればどんな選択をしてもいいと思う。」
彼は頷いた。
さまざま互いに話したあとで、彼はしみじみ言った。
「二人でいるというだけで、すごくストレスが緩和されて心強い」
私は笑った。
「まさか、あなたが私込みで人生を設計していると思わなかった。」
彼は大きな瞳をさらに剥き出しにして突っ込む。当たり前だよと。
記念日を持ち出した。彼のクリスマスギフトに刻印されている今年の夏の日を。
「あの日にはもう決めていたよ。君との人生を。」
裏で女と別れていたのは知らなかったけどね、と私はチクリと刺す。
そうしないと動揺がバレてしまいそうだったから。
ワッフルをストーブの上で焼き、
海苔を炙ってウインナーを温めた彼は
それを茶色い紙袋に詰めて渡してくれた。
私の夕ご飯だ。
時短の日だから必要はないけれど
せっかく用意してくれたのでありがたく受け取る。
「俺は昨日のケーキでまだ胃がぱんぱんだよ。」彼は笑った。
イベントをこちら以上に楽しんでくれて、
こちらが言わなくても「俺たち」として話す。
ど本命の恋愛は心から安心するものだと改めて感じる。
損得勘定から抜け出し、
愛し愛されることは心をつよくする。
一人でも生きていけるからこそ
敢えて誰かと人生を歩みたい。
何があっても、自分を幸せにしたい。
あたたかな紙袋を覗いて、私はつよくなるのを感じた。