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スパダリ、ヤギのボディーソープ
よくカステラを買ってきて、冷蔵庫にはプリンを切らさない。
常にレシピをアプリで検索しては、さまざま作り置きをしてくれる彼を
「スパダリ気質で甘党な人」だと思っていた。
好きなyoutuberの購入品紹介動画を見ていると
彼は「誰、その美人」と聞いた。
「顔面課金とか明確に公開してて、信頼がおけるの。あと単純に綺麗で美人だから見ちゃうんだよね。美容部員だったんだよ。」と答える。
彼はふーん、と言う。
ややあって「君も美人だから、がんばれ」と付け足した。
「あらありがとう。がんばるね」と笑う。
彼なりの愛情表現なのだろうと考えた。
ふたりで散歩がてら買い出しに出る。
寒いねとか暑いねとか、鴨がいるよとか言いながら。
ゆるやかに一駅歩いて、
結局近所のドラッグストアで買い物をすることにした。
彼はボディーソープのストックがない、と言っていた。
私はなんでもいいよと言う。一番やすいので。
今使ってるのは、ボディークリームと同じシリーズのものだ。
紫色のパッケージで、眠る美女がどーんと載っている。リラックス系のアロマ。
同棲前から彼が使っていた。
私も好きな香りだったから嬉しかった。
私はゴートミルクのボディーソープをなんとなく眺めていた。
関西のお笑い芸人姉妹が爆買いしていて、一時流行ったもの。
当時は貧乏だったので贅沢品だと思っていた。
もともとケチなのだと思う。
あまりお金を使わないのだ。
だから、いつもビオレとか赤箱とかを選択しがち。
彼は白いボトルを手に取り、これはなにと尋ねる。私はかいつまんで説明する。
乾燥肌にいいらしい、ヤギミルクの前流行ったやつだよと。
でも泡じゃないね。
「前、いいなあって思ってたんだ。買ったことはないけど、高いから。」
彼はアロマではなく、それをカゴに入れた。
夕方。
「猫たちがきて、君がきて良かった。」
突然彼が言った。
私は、なんでもないふうに「そう?」と答える。
「かわいくて仕方がないんだよ。」
頬に触れる。
「プリンも、カステラもよほどじゃなきゃ買って食べないよ。作り置きだって、ひとりならメニューはいつも一緒。」
私は驚く。心から。
「ほんとに?」
「ほんとに」
ずっと誤解していた。
彼の新しい習慣だったとは。
スキンシップのタイミングを気にして、拒絶されただの思った自分を恥じる。
「今日、あのボディーソープ使っていいから。俺ふるいの使うから。」
胸がいっぱいになる。
「ありがとう。」