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寒波とプリン


甘いものが好きだ。
昔は量を食べたけれど、最近はちがう。

ひとりで食べても面白くない、
と思えるようになったのは
年齢のせいかもしれないし
別の理由もあるかも。


「プリン買うの忘れた!!」
かばんをおろし、ファンヒーターの前で膝をついていると
彼は「いらんやん」と言った。
はやくごはんにありつきたいから。

私は食い下がる。
もうプリンの口なんだ。プリンがなくちゃ。
彼は「買ってきい」と呆れたあと
外の気温について触れた。
私は構わなかった。
もっと寒く、暖房のない暮らしをしたことがあるから。

「先食べてて!」
これ幸いとばかりに、コンビニで明日のお昼も買う算段でスマホを握りしめ靴を履いていると彼はそれを静止させた。
「これ!」と、防寒ズボンとあたたかな上着を引っ張りだしてきた。
それから、ムートンブーツ。

「すぐ帰ってくるから」
「だめ」
そんなやりとりをしているうちに
「もう!」と彼は呆れて自身も同じ格好をする。バイク用の防寒着である。

「寒波が来てるから!いくよ!」
状況が飲み込めずにいたが、
私は笑ってしまう。
でも、遠慮しない。
そこまでしてくれた彼を立てる。


寒い日は、ポケットに手を突っ込んで歩きたくなるが
彼と私は指を絡めて歩いた。すこし早足で。


プッチンプリンをふたつ買って、おもてに出る。
彼の右手があいていたので繋ぐ。
彼は黙って前を向いたままだ。



「こんな旦那おらんよ。」
彼はまんざらでもなさそうに言う。


確かに将来旦那になる男だけれど、
私はまだ妻になる実感が持てない。
なにも現実は変わっていないからだ。

彼が、私の人生にあらわれる前と同じで。


こわごわ言う。
「はい。素敵な旦那様で幸せです。」と。



プレッシャーを与えたくない。
嬉しい気持ちと不安で揺れる。



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