alternative hypothesis
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通常は「対立仮説」と訳されますが、いったい何に対して「対立」なのか。alternativeは「対立」を意味するのか。という疑問があります。
alternative を辞書で引くと、「代わりの、他の」という意味が最初に出てきます。例文は、
an alternative way 代わりの方法
alternative sources of energy 代替エネルギー源
please give alternative dates 代替日を指定してください
There doesn't seem to be an alternative option 代わりの選択肢はないようだ
つまり、ある方法や選択肢がだめな場合、その代わりの方法や選択肢を指し示すときに使うのですね。仮説検定の文脈では、もちろん Null hypothesis(H0) がだめなとき、代わりに Alternative hypothesis(H1) にしておく、ということ。つまり、H0とH1が「排他的」という意味で対立しているのであって、決してH1だけが対立しているのではないのです。当然ですね。対立というのは、何か(意見とか立場とか)が2つ(以上)あって、それらが対立するのです。
このあたり、英語版 Wikipedia に割と明快に書かれています。
formal は正式な、公式なという意味を持ちますが、形式的なという語感もあって、統計的仮説テストでは「形式的」という語感をもつほうがいいような気がしています。文字通り、きわめて形式的な操作だからです。statement も訳しにくい感じがしますが、「記述」くらいでいいのではと思います。
で、mutually exclusive のところに「対立」感が出ています。exclusiveは文字通り「排他的」ですが、その前にmutually(相互に)があることは忘れてはいけません。さきほども書いたことですね。
ここのところは春のワークショップでも清水先生が強調されていました。H0が決まればH1は「自動的に決まる」のです。全体集合からH0を除外した部分がH1で、単にΩを2つに分割しているだけなのです。H0とH1は重なりを持たない=積集合が空集合である、という意味にとるのがいいと思います。
ということで、alternative hypothesis は対立仮説と訳すよりも、「もう一方の仮説」「代わりの仮説」もうちょっと研究用語らしくしたいなら「代替仮説」くらいでいいのでは、と思います。
あと、見落としがちですが、統計的仮説テストのあとに、「結論を出したり判断を下したりするための」という説明があるのに注意すべきです。
formal methods of reaching conclusions or making judgments on the basis of data
という部分ですね。データをもとに、何らかの結論を出す、あるいは判断をする、そのための formal method が、統計的仮説テストだと言っています。あくまで、結論や判断をするのは分析している「人」であって、統計学が自動的に判断をしてくれるわけではない。ここのところの理解はとても大事だと思います。