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alternative hypothesis

Cover Photo by Parrish Freeman on Unsplash

通常は「対立仮説」と訳されますが、いったい何に対して「対立」なのか。alternativeは「対立」を意味するのか。という疑問があります。

alternative を辞書で引くと、「代わりの、他の」という意味が最初に出てきます。例文は、
an alternative way 代わりの方法
alternative sources of energy 代替エネルギー源
please give alternative dates 代替日を指定してください
There doesn't seem to be an alternative option 代わりの選択肢はないようだ

つまり、ある方法や選択肢がだめな場合、その代わりの方法や選択肢を指し示すときに使うのですね。仮説検定の文脈では、もちろん Null hypothesis(H0) がだめなとき、代わりに Alternative hypothesis(H1) にしておく、ということ。つまり、H0とH1が「排他的」という意味で対立しているのであって、決してH1だけが対立しているのではないのです。当然ですね。対立というのは、何か(意見とか立場とか)が2つ(以上)あって、それらが対立するのです。

このあたり、英語版 Wikipedia に割と明快に書かれています。

Basic definition
The alternative hypothesis and null hypothesis are types of conjectures used in statistical tests, which are formal methods of reaching conclusions or making judgments on the basis of data. In statistical hypothesis testing, the null hypothesis and alternative hypothesis are two mutually exclusive statement.

https://en.wikipedia.org/wiki/Alternative_hypothesis

対立仮説と帰無仮説は、統計的検定で用いられる推測の一種で、データに基づいて結論を出したり判断したりする正式な(形式的な?)方法である。統計的仮説検定では、帰無仮説と対立仮説は互いに排他的な2つの声明(記述?主張?宣言?)である。

formal は正式な、公式なという意味を持ちますが、形式的なという語感もあって、統計的仮説テストでは「形式的」という語感をもつほうがいいような気がしています。文字通り、きわめて形式的な操作だからです。statement も訳しにくい感じがしますが、「記述」くらいでいいのではと思います。

で、mutually exclusive のところに「対立」感が出ています。exclusiveは文字通り「排他的」ですが、その前にmutually(相互に)があることは忘れてはいけません。さきほども書いたことですね。
ここのところは春のワークショップでも清水先生が強調されていました。H0が決まればH1は「自動的に決まる」のです。全体集合からH0を除外した部分がH1で、単にΩを2つに分割しているだけなのです。H0とH1は重なりを持たない=積集合が空集合である、という意味にとるのがいいと思います。

ということで、alternative hypothesis は対立仮説と訳すよりも、「もう一方の仮説」「代わりの仮説」もうちょっと研究用語らしくしたいなら「代替仮説」くらいでいいのでは、と思います。

あと、見落としがちですが、統計的仮説テストのあとに、「結論を出したり判断を下したりするための」という説明があるのに注意すべきです。
formal methods of reaching conclusions or making judgments on the basis of data
という部分ですね。データをもとに、何らかの結論を出す、あるいは判断をする、そのための formal method が、統計的仮説テストだと言っています。あくまで、結論や判断をするのは分析している「人」であって、統計学が自動的に判断をしてくれるわけではない。ここのところの理解はとても大事だと思います。