質問文による違いはどうか
「生涯学習」調査がさ行まで終了したので,ひとまずこれまでと同じ分析をしたのだが,ほとんど同じ結果であるので,あえて書き記す気がしない。データが少し増えても傾向が変わらないということは,今後もっと増えても変わらないかもしれない。もう少し進んだらまたやってみることにしよう。
そこで,以前から気になっている「質問文の違い」について,ちょっと分析してみたので,それを記録しておきたい。
質問文の違いにも注目すると
質問形式の違いについては,すでにあ行の結果でも,あ~か行の結果でも書いた。選択肢を示す方が,2択で示したり,頻度を尋ねたりするよりも「生涯学習」の参加率が高く出る。その差はおよそ20~25ポイント程度である。きわめて大きな違いであるといっていい。しかし,話はこれだけで終わっていなくて,同じ質問形式でも参加率が大きく異なっている。
たとえば選択肢形式での調査だけを取り出してみると,上の散布図のようになるのだが,低いほうは20%台から,高いほうは80%を超えている。これをもう少し説明できないものだろうか,と考えているわけだ。
そこで,ここでは「質問文」の表現に注目してみる。調査をまとめる中で気になっているのは,たとえば
(A)「この1年間に生涯学習をしたことがありますか」
と尋ねられるのと,
(B)「現在生涯学習をしていますか」
と尋ねられるのとでは答え方が違うだろう。
(C)「継続して生涯学習をしていますか」
という聞き方もある。主観的には,Aー>Bー>Cという順に,「はい」と答えるハードルが高くなっているように感じられる。とはいえ,これは個人的な印象なので,実際そうなっているのかは調べてみないとわからない。
質問文の特徴を整理する
というわけで,質問文の特徴を,次の点について調査した。
1.「生涯学習」という語を使用しているか,単に「学習」としているか
調査の中には,「生涯学習を~」ではなく「学習を~」「学びを~」「趣味活動を」などと表現を変えているものがある。ここまで収集した調査の中で,約6割が「生涯学習」を使用しているが,残りは使用していない。使用率は質問形式によってやや差があり,2択形式がもっとも高く69%,頻度選択がもっと低くて57%であった。
2.現在時制で尋ねているか,過去時制で尋ねているか
これは,(生涯学習を)「していますか」「取り組んでいますか」のように現在形で尋ねているか,「しましたか」「参加したことがありますか」のように過去形で尋ねているかの違いで,現在形=1,過去形=0でコードしている。頻度選択がもっとも現在形が多くて78%,選択肢がもっとも少なく30%という明確な差がある。選択肢形式では参加率が高く出ることから,現在時制で尋ねることは参加率を低くすると予想できる。
3.継続性あるいは現在性を強調しているか
質問文の中に,「継続して」「日頃から」という表現や,「現在」「今」という表現を入れて,現在も継続して行っていることを尋ねているのですよ,という態度を明示しているかどうかである。こうした表現が含まれたもの=1,そうでないもの=0でコードした。これは現在時制と同様の傾向で,頻度選択で55%,選択肢で19%と,やはり明確な差があった。こうした表現は,参加率を低くすると予想できる。ただし,現在時制と同じ趣旨の表現であり,多重共線性が発生する可能性もある。
4.自発性あるいは目的性を強調しているか
質問文の中に,「自発的な」「自ら」「目標をもって」などの表現があるかどうであり,含まれている=1,そうでないもの=0でコードしている。これもやはり同様の傾向で,頻度選択で27%,選択肢で11%であった。
5.質問形式を数値化
最後に,回帰分析をするにあたり,質問形式を2値に数値化した。選択肢形式で参加率が高くなることがわかっているので,選択肢形式=1,それ以外=0とコード化すると同時に,いつも分析に使用している3つの質問形式以外を分析から除外した。これで,準備完了である。
回帰分析をしてみた(ステップワイズ法による)
目的変数を参加率,説明変数を上記の5つとして,ステップワイズ法で回帰分析を行った。分析ツールはHAD17(清水, 2016)である。ステップワイズ法の最終的な結果だけを示すと次のようになる。
「3.継続性あるいは現在性」は,「現在時制」との間に多重共線性が疑われたせいか,有意な説明変数とはならなかった。そのほかは,予想通りの方向で有意な係数が出た。ただし,上記の表は標準化係数であることに注意。
非標準化係数の方が解釈がしやすいのでこっちも出しておこう。
「質問形式_t」が,選択肢型の質問形式を示している。選択肢型を採用すると,参加率が22.7ポイント高くなると考えてよいだろう。そして,「学習」ではなく「生涯学習」とすると約12ポイント下がり,自発性や目的性を強調すると約8ポイント,現在時制で尋ねると約4ポイント下がることになる。
参加率を左右する質問文表現は
というわけで,質問文の表現が参加率に影響していることは確かなようだ。
参加率を上げる要因は,選択肢型であり,「生涯学習」ではなく「学習」などとし,自発性や自主性に関する語を用いずに,過去形で尋ねることである。典型的には,次のような質問文である。
>あなたは、この1年間にどのような学習活動を行いましたか。(2020年,I市,80.7%;2015年,K市,62.2%など)
参加率を下げる要因は,この逆である。
>あなたは、目的を持って、継続して自発的、自主的に生涯学習に取り組んでいますか。(2020年,O市,34.9%,2択型)
>あなたは、日頃から生涯学習をしていますか。(2015年,I市,26.7%,頻度選択型)
質問形式ごとの効果
最後に,質問形式ごとに,「生涯」「自発性」「現在時制」(以下,まとめて「D要因」とする)がどれくらいの効果をもっているのかを分析しておこう。
まずは選択肢型の質問による調査のみの分析。D要因の数(「生涯」「自発性」「現在時制」のどれか1つでも使っていれば1,2つ使っていれば2ということ)が増えるほど参加率が下がっていて,有意なF値なのだが,多重比較では0と2の間しか有意差が出ていない。
次に2択型の分析。こちらは,1つでも使ってあれば明らかに低く出ていて,多重比較で0と1,0と2,0と3がいずれも有意。効果量も1を超えていて,明確な差であることがわかる。
最後に頻度選択型の分析。ここは0がない。つまり,頻度選択ではすべての調査で,「生涯」「自発性」「現在時制」のいずれかの特徴をもっていることになる。そのうえ,1と2,1と3はいずれも有意であり,1と3の差の効果量は1.3と大きい。
3つのプロットを比べると,D要因の効果は2択型と頻度選択型で大きく,選択肢型ではあまり大きくない。これは,選択肢型では,選択肢の中から複数選択することが回答の中心となる作業であり,どれか1つでも選んだら,それは学習をしているとして集計される。そのため,選択肢の表現を検討することに注意資源が使われ,質問文そのものへの注意が減少するのではないかと予想される。