心理学研究法#01
三浦先生の『研究法'20』第1章は心理学とは何ぞや,研究とは何ぞや,という原理的な話でした。
その前に,まえがきに「平易かつ的確に解説した」とあるのが,やたらにかっこいい。まえがきには心理学をとりまく状況の変化が2つ述べられています。1つは,公認心理師の養成にかかわるカリキュラム整備のこと,もう一つは心理学の信頼性のことです。そもそも「心理学研究法」は,認定心理士のころから,必修科目とされているものですが,白状すると,受講してもあんまりおもしろくなかった。いえ,三浦先生のではなく,その前に開講されていた科目ですけどね。とはいえ,実際に研究(らしきもの)を少しだけやってみて,それから読み返すと実によく理解出来ておもしろい。こういうことは,よくあることでしょう。
今から公認心理師の資格取得を目指そうとは思いませんが,心理学には興味がある。そして,何も貢献できそうにないくせに,心理学の再現性問題にも興味がある。三浦先生も参加したこんな議論もありました。
http://chitosepress.com/2015/10/26/125/
三浦先生の「心理学ワールド」の論文のほうが読みやすいかも。
と,リンクをはってみたものの,レビューできるほど読み込んでない。先に第1章をすませましょう。
まず定義的な部分。
心理学とは,「心の働きを対象とする実証科学である」。ここで「心の働き」とは,人の意識や行動を支えるメカニズム,「実証」とは,理論から導いた仮説が事実であることを示すこと,と説明されています。明快。とはいっても,我々は人の「心の働き」を見ることはできないし,意識することもできないことも多い。そこで,心理学では人の「行動」を測定し,その結果をもとに心の働きを推定する,ということをするのですね。
しかし注意すべきは「行動」の解釈で,実際に体が動くこと(親しい人に近づくとか,微笑みかけるとか)だけではなく,頭の中で考えること(勉強と関係ないことを考えてしまうとか,それに気づいて集中し直すとか)も,心理学では「行動」ととらえる。また,ふだんの自分の考えについて,質問に回答してもらうことも,「行動」としてとらえる。アンケートに答えるために手を動かしているから行動なのではなく,アンケート用紙に〇をつけることで,自分の考えを表明するという行動をしている,ということ。ここら辺は,これ以降の章でも説明があると思われますが,第1章では意外にさらりと説明が終わっているので,注意が必要なところかもしれません。
その後は,妥当性と信頼性の問題,相関関係と因果関係の問題,そしてRQの立て方へと話が続きます。前2つは統計学の教科書でもさんざん説明されているので,ちょっと後回しにして,RQの話を書いておきましょう。
RQはもちろん,Research Questionです。心理学の研究テーマは,「日常のいたるところに転がっている」。そうですね,研究というものをやってみると,ああ,ほんとに「転がっている」ことがだんだん見えてきます。やってみないうちは,これがわからない。経験が人の思考を成長させるのですね。料理というものをちゃんとやっていなかったころは,ありあわせのもので何か作る,などというのは神業にしかみえなかった。今でも多少そういう感覚はあるのだけれど,まあ,これとこれで,何とかしようと思うとなんとかなる。大した料理ではないけれどそれなりに食える。料理の経験は冷蔵庫の在庫に対する認知を変える(ところでこれは妥当なたとえ話なのか? そこのところの認知はまだ鍛えられていないが・・・)。
というわけで,とんでもなく曖昧な,一生かかっても解決できないような,壮大な研究テーマをつくってしまうのですね。それを,さまざまな現実的な制約を考えながら絞り込んでいく。これが難しい。少なくとも私にはたいそう難しかったのでした。
余計な枝葉を切り落としてRQをミニマムかつ核心をついたものに練り上げていくのだと考えれば,面白くもなろうし,よい研究のためにはそれが必須である。:p.21
なるほど。うまいことおっしゃる。
陶芸をするときに,土をこねることに相当の手間をかけるという。いえ,やったことはないのです。でも,買ってきた粘土を下手にこねると,かえって空気がはいってよろしくないらしい。プロが練り上げたものは(実際に練っているのは機械かもしれないが),切った断面が美しい。だからこそ,きれいに焼きあがるらしい。RQも,きっと手慣れた人が練り上げたものと,私のような素人が練り上げたものは違うのだろう。どうやったらミニマムで,核心をついたRQになるのか,知りたいものだ。繰り返しやってみなければだめ,言葉では教えられない,とか言われそうだけれどね。
第1章とりあえず終わり。