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まだ少数のサンプルだけれど,予想通りというか。

地方自治体が実施した「生涯学習」調査を調べている。もともと地方自治体調査に関心をもったのは,ある方から,「生涯学習」の定義をいろいろ集めてみるのも面白いかも,と助言をいただいたことによる。そのときは,私の頭の中にはいわゆる研究者の書いた定義しか思い浮かべられなかったので,うーん,と返事をしたままそのままにしておいたのだが,ある時,検索画面に表示された「生涯学習に関する意識調査」なるものを,地方自治体(都道府県とか,市)が行った結果が出ているのを見て,いくつか読んだところが。まあ面白いではありませんか。そのとき特に面白かったのは大阪府堺市のもので(興味のある方はぜひ),「生涯学習」なんてこの調査ではじめて聞いた,という意見がいくつも書かれていた。全国世論調査で,言葉の認知度80%になったのはすでに書いたと思うが,それとは全く違う世界が,やはり地方にはあるのだと思った。そして,なんと「生涯学習」について深い理解や期待を示している意見も(もちろんごく少数ながら)あったのだった。これは,いずれ書くことになると思う。

調査の始まり

とりあえず,偶然見つかったものだけではなく,もう少し系統的に調査をして,まとめてみようと思ったのがもう半年以上前になる。都道府県でもいいのだが,いっそ,もっと小さい単位にしようと思って,全国のすべての「市」について,どのような調査をしていて,何が示されているのかを調べようと思って,それが現在進行形なのである。参考までに記すと,2015年の国勢調査によると,全国に「市」は791ある。どれくらいのペースで調査が進むかわからないし,進めてみて修正すべき点もあるだろうから,まあ,ざっと,1年はかかるものと思っている。で,手始めにしたのが,国勢調査データを取得して,すべての「市」を抽出し,地区コードを調べ,正しい読み方を調べ(聞いたことのない市がいっぱいあった),関連するかもしれない「就業者のうち通学している者」の割合とか,人口密度とかも一覧表に整理した。そして,「市」をその読み方で五十音順に並べた。こうすると,Wikipedia の「日本の自治体一覧」なぞという便利なページから,それぞれの「市」の公式サイトへ順番にジャンプできるのである。おまけに,「〇〇市」って五十音順に整理したほうが,「それって何県だっけ?」と脳内検索するよりはるかに整理しやすいのである。もちろん,このような方法をはじめから思いついてわけではない。やりながら,徐々に改善してきたのである。というわけで,エクセルのシートにはすべての市が五十音順に並んで,データが入力されるのを待っている。

「あ行」が終わったぞ

さて,つい先日「あ行」で始まる市(青森市とか,沖縄市とかね)の,調査が終わったので,どんな具合になるか整理してみた。書いてみよう。

「あ行」ではじまる市は179ある。そのうち,公式サイトの検索によって生涯学習に関する意識調査などのデータが取得できたのは58の市であった。市役所にメールして,データがあったら送ってもらうように頼んだらいいじゃないの? というツッコミがあるかもしれないが,どこの馬の骨とも知れない人物がいきなり連絡して,丁寧に送ってくれるほど市役所の人間はひまではないと思っているので,それなりの結果が出てから,それを補完する形で追加データを収集するならば,やってもいいと思っている。

閑話休題。取得できたデータはいろいろである。「意識調査」という形で,「生涯学習」をテーマに取り上げて,丁寧に集計表を作っているものもあれば,集計報告そのものはないけれども,「生涯学習推進計画」などの冊子の中で,同様のことをしているところもある。かたや,市の総合計画に対する満足度調査のような形でかなり広範な内容を調査していて,その中の1問に「生涯学習をしていますか」みたいな質問をしているところもある。
とりあえず興味があるのは,「生涯学習」をどれくらいの人が「やっている」と答えているか,なぜその「生涯学習」をしているか,また,やらない理由は何か,といったところなので,いくつかの質問にしぼって,テキストファイルに結果を転記するという方法でデータを収集した。そのうち,以下に報告するのは,「生涯学習」をしている人の比率だけを,エクセルに転記して集計してみたものである。

基本統計量1(まだ途中のくせに)

まず基本統計量から。対象としたのは,前述の58の市の公式サイトから取得した調査結果から抽出した129の調査結果である。もっとも古いものは2005年,最も新しいものは2020年(これは調査年,であって,年度ではない),うちわけは次の通り。

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市によっては,過去の調査データをすべて公開しているところもあるが,「生涯学習推進計画」などに調査結果が転載されているような場合,計画が更新されると,古い計画は削除されてしまい,調査データも見られなくなってしまう。そのような事情のため,年がさかのぼるほどデータ数は少なくなってしまう。経年変化を見るためには不利な条件である。したがって,豊富な項目できちんと調査している自治体については,過去のデータを提供していただけないか,と依頼することも,今後考える必要があるだろう。

基本統計量2+(負の相関なのだ!)

つぎに,「生涯学習」実施率は,最小値が10.5%,最大値が85.0%,平均は46.4%(SD = 17.45)であった。調査人数(有効回収数)もさまざまで,最小が136,最大が3265,平均は1127(SD = 557)であった。調査年ごとにプロットすると,こんな感じである。

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直線近似をすると,きれいに右下がりになっていて,係数が -1.37なので,毎年1.4%くらい低下している,という結果になった。ばらつきが大きいので,相関係数は -.25 と小さいのだが,右下がりになっている様子は見た目にもはっきりしている感じがする(ひいき目か?)。

微妙な問題たち

ただし,ここにも微妙な問題がある。それは実施率をどのように算出しているか,である。
もっとも明快なのは,「この1年くらいの間に,生涯学習をしましたか」のような質問で,これに対して「はい/いいえ/無回答」で回答しているものは,このまま比較指標とすればよい。
あるいは,内閣府調査のように,生涯学習の内容を複数選択してもらい,選択肢の一つとして,「そのようなことはしていない」を入れておく。そして,100%から,「そのようなことはしていない」と「無回答」の比率を引き算して,それを実施率(つまり,学習内容を1つ以上選んだ割合)とする。

悩ましいのは,「生涯学習をしていますか,またはしたことがありますか」のように,過去の経験まで一緒にしている質問文で,これは当然,比率としては高く出ると思われる。といっても,どれくらい高く出るか予想はできないし,高くなっただろう分を勝手に減らすわけにはいかないので,仕方なくそのまま使う。あるいは,質問文のタイプを記録しておいて,データが潤沢に集まったなら,このようなタイプを除外して分析することにする。

次に,「生涯学習をしていますか」に対して,頻度の選択肢を示して答えさせている調査である。つまり,「よくしている」「たまにしている」「ほとんどしていない」「まったくしていない」の4件法などの場合。通常,このような4件法では,「よくしている」と「たまにしている」を「肯定的回答」としてまとめ,これを実施率とすることが多いのだろうが,さて,どうしたものか。
「ほとんどしていない」を,「ほとんどしていない(でも,ちょっとくらいは,している)」と解釈するか,「ほとんどしていない(だって,ぜんぜんしていない,ってみっともないしね)」と解釈するか。
内容を複数選択して回答を求めるとき,1つだけ選択しようが,3つ選択しようが,それは「生涯学習をした」と解釈する。これも,「1つくらい選んでおかないとみっともないよね」なのか,それとも,「これだけはずっと続けているんですよ」なのかはわからない。どちらに解釈するか。
説けない疑問に直面した結果,上記の分析では「ほとんどしていない」を実施率に含めている。これも,質問形式を記録しておいて,潤沢にデータが収集出来たら,別に分析する方がよいだろう。

というわけで,いろいろ,中途半端な分析ではある。しかし,係数が小さいながらも,次第に「生涯学習」実施率が低下している,というのは,ほぼ予想通りの結果である。

参考までに...

あと,地域ごとの差についてももちろん興味があるのだが,いくらなんでもサンプルが少ないので,これはおあずけである。でも,人口指標との相関はとってみた。同じ「市」のなかでも,人口が多いほうが,つまり政令指定都市のような大都市の方が,小都市(世論調査では10万人未満がこれに該当する)のほうが「生涯学習」率が低いという結果が出ていたので,これが再現されるのか,ということである。そのために,市によって複数回の調査がある場合,実施率の平均を算出した。実施年によって人数が異なることがあるので,いちおうNの大きさを考慮した加重平均とした。そして,これと,人口,および人口密度との相関係数を算出した。その結果,

「生涯学習」実施率(加重平均)と人口(2015年国勢調査)
 r = - .051 (人口を対数に変換すると r = .114)
いずれにしても無相関。
「生涯学習」実施率(加重平均)と人口密度(2015年国勢調査)
r = .093 (人口密度を対数に変換すると r = .142)
やはり無相関。
ただし,あ行ではじまる市のみのデータなので,データが増えると変わる可能性があり,あくまでも途中経過。
ついでに通学率(就業者の中で,「通学のかたわら仕事」の人数の割合)との相関は, r = .149 で,やはり無相関。
さて,「か行」以降のデータが追加されたとき,この値はどのように変わるのだろうか。楽しみである。