夢/刀ステ心伝つけたり奇譚の走馬灯

舞台「刀剣乱舞」シリーズの特命調査、慶応甲府。
大きな建物のような舞台装置を人力で回しながら、刀剣男士たちが縦横無尽に走りながら殺陣をする臨場感がとてつもなく、現地で生で見ることで真価が発揮される演劇だった。
また演出についても場面切り替えを古典的な方法、たとえば役者が板の後ろに隠れた瞬間、別の場面にいる役者が一瞬も間をおかずに飛び出してくるなどで表現していて舞台の良さが十分に浴びられた。

筋書きは、終始、愛と物語(フィクション)についてのお話だった。
メンバーの逸話の特殊性や新選組という物語性が儚さと悲劇を生み出した。様々な人の夢が詰まった話だった。

改変された歴史は新選組を愛した者が付け足した儚い夢であり、それを行き詰まったあとの歴史に遡行してきた刀剣男士たちが走馬灯という形で目にする。
そんな新選組について今語られている姿、三段突きやフィクションでの評価、思い浮かべる見た目、あの舞台上に立つ姿すら本当の歴史か定かではない(むしろ創作に近い)。
そしてその脚本すらメタ的に見て、脚本家や演出家が作った物語である。

「こうであったらいいのに」という改変された歴史は、新選組の隊士たち、特に沖田総司の夢であり、新選組の刀の刀剣男士の夢であり、幕末や新選組、佐幕派を愛する現代のファンの夢だ。

会津とゆかりがある身として、私は新選組が大好きだし尊敬している。
そんな彼らには無数の創作が存在しているが、この度またこの舞台刀剣乱舞がひとつ新しく加わったことが嬉しくて仕方ない。
こんなにも格好良く、夢に溢れ、「もしも」と願う愛に溢れた作品は、私にとっても夢のような話である。

江戸時代から明治維新における政権をめぐっては内紛が起こり多くの血が流れた。あんな短い数年の間に多くの悲劇が起こった。勝った側にもまた、無念に終わった人も悲しい思いをした人もいただろう。

正しい姿、正しい歴史を知ることは重要だが、憎まれて忘れられるより、愛されて、やれ小説だの漫画だのモチーフにした作品が(勿論フィクションとして)盛り上がり残る方が良いはずだと私は思っている。

刀ステのシリーズとしては続き物ではあるが、単体である程度完結し、シリーズを知らずとも十分楽しめる作品だったのも良かったと思う。また上演時間も程よい長さでコンパクトにしっかりまとまっていて、完成度が非常に高く大満足の舞台だった。

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