芸能人自殺の連鎖は「炭鉱のカナリア」 女性の自殺はなぜ急増したのか
コロナ禍で死の淵に立つ女性たちの心の叫びをレポートする。/文・秋山千佳(ジャーナリスト)
<この記事のポイント>
●コロナ禍で女性の自殺者が増加している背景に「経済問題」を指摘する声は多い。だが、コロナ禍の女性の自殺者増は経済問題とは言い切れない
●人に助けを求めにくい傾向と仕事の不安定さ。自殺に影響する、このふたつの傾向を持つのは、芸能人と、風俗業界の女性たちである
●専門家は、今後、“漠然とした不安”が“具体的な絶望”に変わる時期に移行していくのではと懸念している
「死にたい」をアルコールで紛らわす
「そりゃ、死にたいですよ。デリヘルの仕事は1日1日先が見えないし、昼職も始めたけど月10万円くらいにしかならない。今までのようにいかないのが苦しくて、1人で『このまま死んだらいいのに』と思いながら吐くまで飲みます。頭が割れそうに痛むけど、本当に割れたらいいんですけどね」
福岡市内のデリバリーヘルス(デリヘル、無店舗型風俗)で働くシングルマザーの古賀花さん(仮名、35)は、コロナ禍で膨らんだ「死にたい」気持ちを紛らわすため、アルコールに頼るようになった。
古賀さんはこの春まで自宅で酒を口にすることはなかった。ところが緊急事態宣言前後の自粛生活で毎日飲むようになり、すぐに、吐くまで飲まないと気が済まないようになった。成人女性にしては小柄なほうだが、気が付けば日本酒やウイスキーの瓶が空になっていく。決して酒に強い体質ではないので、翌朝には強烈な吐き気とともにトイレに駆け込むことになる。
「もうトイレがお友達です。仕事が再開してからも、次の日が休みだと死ぬほど飲みます」
古賀さんには近くに住む、40代半ばの恋人がいる。その彼は古賀さんの「異変」を知っているのかと問えば、「知らない知らない、知りません」と手を横に大きく振る。
古賀さんは20代前半で結婚、出産したが、夫が働かなくなり、生活のためにデリヘルで働き始めた。夫の両親からは「そんな仕事しないで」と責められたものの、離婚する頃には夫は消息不明になっていた。養育費は一切払われていない。心療内科に通い、子どもを抱えたままでは思うように働けず、借金を重ねた。闇金融に駆け込んだこともあるし、精神安定剤と睡眠薬の過剰摂取で自殺未遂をしたこともある。
生活保護を検討しても良さそうな状況だが、本人は「それはちょっと無理かな」と言う。
「前に申請していいかと両親に聞いて大反対されたんです。『人の道を外れたことをするな』って。世間体が大事なんじゃないですかね」
その代わりとして、300万円に膨れ上がっていた借金を親が一旦肩代わりすることで話がまとまった。現在は小学生の子どもを実家に預け、月5万円ずつ返済している。親は古賀さんが何の仕事をしているのかを知らない。「怪しんではいるけど聞いてこない」という。
風俗店で働く女性も……
「未来がない」
このコロナ禍で、その5万円を確保するのが難しくなった。
3月から客が減り始め、4、5月は感染リスクを恐れて自発的に休んだ。6月に仕事に戻ったが、2日に1本程度しか予約が入らず、「私は必要とされていない」「居場所がなくなった」と鬱々とした気分になった。例年なら地元で稼げない時には山口県の店へ「出稼ぎ」に行っていたが、現地の知人に聞くと「もうこっちはマジでヤバいよ、お客もおらんし女の子もおらんくなった(いなくなった)」と言われて無理だと悟った。結局、収入の足しにとコールセンターの仕事を掛け持ちすることにしたが、「ものすごいストレスになっている」という。
恋人も苦境にある。職場である飲食店が2カ月休業となり、その間の手取りは月12万円。再開後も17万円で、新型コロナウイルスの感染拡大前より大幅に減った。
「彼は勤め先がインバウンド頼みだったので元には戻らないし、年が年だから転職先もない。最近、顔つきがヤバい時があって、死んだらどうしようと思います」
そう眉を寄せる古賀さんは、自身にも「未来がない」と言い切る。
「前は自分のお店を持ちたいと思っていたけど、この先厳しいですよね。コロナが収束すればと言う人もいますけど、今、風俗は悪だ、悪だと色んなところで言われているし。もう酒飲んでぷっつり逝けたら楽なのに」
アルコールをはじめとする依存には「孤独な自己治療」という言い方がある。快楽を求めての依存ではなく、苦しみから逃れるため、自分で落ち込んだ気分を立て直すための手段という見方だ。他者に苦痛を吐き出せない人はこの「自己治療」に頼り、やがて心身を蝕まれる。厚生労働省のサイトには、アルコールが判断力を低下させ衝動性を高めることで自殺に至る恐れがあることや、自殺者のうち3分の1の割合で直前の飲酒が認められることが記されている。
コロナの収束が見えない中、女性の自殺者が増加している。
警察庁のデータによると、女性の自殺者が急増したのは7月から。それまで月400~500人台で推移していたのが、7月が651人(対前年同月比15.6%増)、8月が651人(同40.3%増)、9月が639人(同27.5%増)となった。人数だけで見れば、依然として男性が上回るが、前年同月との増減率で見ると、男性は7月が5.1%減、8月が5.6%増、9月が0.4%増なので、女性だけが今年になって大幅に増えていることがわかる。
経済問題より家庭問題
女性の自殺増の背景として、経済問題を指摘する声は多い。
厚生労働大臣の指定を受けて自殺対策の調査研究を行う「いのち支える自殺対策推進センター」は10月、コロナ禍の自殺の動向に関する緊急レポートを発表。自殺増の背景として「経済・生活問題」を筆頭に挙げた。非正規雇用者の減少が女性に著しく、パンデミック前の今年2月と8月とを比較すると、女性82万人、男性7万人の減少が認められたとするデータも添付した。報道も、経済問題を女性の自殺増に結びつけたものが目立った。
確かに女性をめぐる雇用環境が悪化しているのは、各種データからも明らかだ。
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