佐治敬三 君臨しつつ統治する 野地秩嘉 100周年記念企画「100年の100人」
40年間、オーナー経営者としてサントリーを成長させた佐治敬三(1919~1999)。ノンフィクション作家の野地秩嘉氏は、過去にインタビューした時のことを今も鮮明に覚えているという。/文・野地秩嘉(ノンフィクション作家)
野地氏
「野地先生、ご本は拝読しています」
会った瞬間、佐治敬三はこう言った。最初の本『キャンティ物語』を出した直後、インタビューする機会に恵まれた。会長室に招かれて「あ、ほんとに読んでる」とわかった。デスクには100冊以上の本が乱雑に積み重なっていて、1番上に私の本が置いてあり、しかも、ページが開かれていた。芸が細かいのである。
「僕はいつでも、うちのCMソングを歌ってます。社長でも自分の会社のCMソングを歌えん人なんていっぱいおるでしょう。でも僕はおっちょこちょいですから、平気で歌ってます。だが、そのおっちょこちょいのところがいいんじゃないかと自分ではそう思うてます」
彼は「じゃあ、ちょっとやってみますか」と立ち上がり、アメリカ西部のカウボーイが着けるようなベルトを取り出した。ベルトに革製のスリッパがはさんである。同社がCMで使ったテレビ番組「ローハイド」のテーマがラジカセから流れ出した。曲の最後にくると、佐治はカウボーイが馬に鞭を当てるようなしぐさを真似て、「バッシーン」とスリッパで机を叩いた。そして、「ビールはサントリーでっせ」とひとこと。天真爛漫で、稚気あふれる人だった。
ただ、当時、制作していたCMは気に入らないと言っていた。
佐治敬三
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