日本語探偵【お】「汚名挽回」の理屈 学問的にほぼ解明済み|飯間浩明
国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです。
【お】「汚名挽回」の理屈 学問的にほぼ解明済み
「汚名挽回」は、世間でよく誤用扱いされることばの代表です。「『挽回』は取り戻すこと。『汚名挽回』では、汚名を再び取り戻すことになる。『名誉挽回』『汚名返上』と言うべきだ」というわけ。でも、これは濡れ衣です。「汚名挽回」はべつにおかしくありません。
このことは、ツイッターでも何度か述べたことがあります。すると、「飯間だけがネットで語っている珍説だ」なんて言う人が出てきた。いやいや、よく調べてください。「汚名挽回」の理屈がおかしくないことは、すでに論文も出ていて(佐々木文彦氏)、これを誤用とすることは「迷信」(新野直哉氏)という評価が事実上定説になっています。
この話、案外知られていないみたいなので、改めて述べておきます。
「汚名」と「挽回」が結びついて問題ないことをマスメディアで最初に指摘したのは、『週刊文春』の高島俊男氏の文章でした(1999年。『お言葉ですが…(5)』所収)。これは高山盛次氏の論の上に立って考察したものです。
要約すると、「挽回」は「頽勢・衰勢・衰運・劣勢……を挽回する」と、マイナス方向の語につく例が多くあります(むしろ、プラス方向の語につく例は、現代語では「名誉」ぐらいしかない)。つまり、「挽回」には「元の良き状態に戻す」という意味があり、「汚名挽回」も誤りではないというのです。
大変分かりやすい説明です。ここに示された「挽回」の使われ方は、その後の研究によっても確認されています。
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