【ダイジェスト版】岩波明×石戸諭オンライン対談「殺人に至る『現代の病』とは何か? 京王線ジョーカー、殺人看護師…」(2021年12月13日配信)
文藝春秋digitalのオンライン対談イベント「岩波明×石戸諭 殺人に至る『現代の病』とは何か? 京王線ジョーカー、殺人看護師…」が、2021年12月13日に開催されました。
精神科医で昭和大学医学部精神医学講座主任教授の岩波明さんがこの日のゲスト。現代日本の事件ではどのように精神鑑定が行われてきたのか。ノンフィクションライターの石戸諭さんはそうした視点から岩波さんに質問を投げかけていきます。
横浜市の旧大口病院で複数の患者が犠牲になった、点滴連続中毒死事件の久保木愛弓被告の精神鑑定をめぐる話では、この事件で精神鑑定を担当した岩波さんから、裁判の様子や、精神鑑定の詳細について語られました。
岩波さんの話を受けて、石戸さんはさらなる問題に言及しました。
「裁判における精神鑑定は、犯行時の状況を明瞭化する段階で役割が終わってしまう。裁判で刑罰が確定したら、仮に精神鑑定によって心神喪失状態や幻覚症状が認められていても被告人は刑務所に投げ込まれてしまう。しかしそのような状態の人間に懲役刑のような刑罰を与えたとして、果たして刑罰というものは機能するのか? 精神鑑定を必要とする事件や裁判において、そうした一番大事なはずの問題が抜け落ちているように僕には思えます」
岩波さんは「我々医療者が決められることではないですが」としながらも、「一般的な考えとしては、明らかな疾病がある場合は、拘置所や刑務所にいたとしても刑罰よりも治療を受けさせるべきです。そういう状態の人に刑罰を科しても基本的には意味がない。もちろん、それでも刑罰を科すべきと考える人もいる。これは行政や司法が継続的に議論するべきところでしょうね」と答えました。精神疾患治療と懲罰感情の落としどころを、社会に実装させていくプロセスについて考える手がかりを示してくれました。
対談では、附属池田小事件、佐世保女子高生殺害事件、京王線刺傷事件など、過去の事件についても議論が及びました。また、日常的には馴染みがない精神鑑定用語の意味や、精神鑑定に対する率直な疑問を、石戸さんは岩波さんに投げかけました。岩波さんはそのひとつひとつに丁寧に答えています。イベントは専門的な内容でありつつも、理解の敷居が高くなることなく進行していきました。
現代における「心の闇」ともいうべきある種の病が、なぜ日常を壊す凄惨な事件につながる契機となってしまうのか? それはどのような社会をデザインすれば減らしていくことができるのか? そうした事件において科されるべき刑罰とは? 精神鑑定の役割とは? この日の2人の話は、精神鑑定という仕事を通じて殺人事件の背景や状況を知り、それについて考えることの意義を我々に切実に伝えてくれる貴重な対話だったと言うことができるでしょう。
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