「泥舟」菅政権 それでも倒閣の動きなし|赤坂太郎
「反・菅」勢力頼みの安倍までが首相支持の奇怪。/文・赤坂太郎
麻生・菅コンビは「縁起が悪い」
5月21日、自民党本部で衆参60人の国会議員が出席し「半導体戦略推進議員連盟」の初会合が開かれた。会長には税調会長の甘利明が座り、安倍晋三と麻生太郎という2人の元首相が最高顧問に就いた。第2次安倍内閣発足以降、この3名と官房長官だった菅義偉は、4人の頭文字から「3A+S」と呼ばれ、長期政権を中枢で支えた。その「3A」が同席したことで、「幹事長の二階俊博に対抗し、安倍・麻生連合で党内の主導権を握る狙いでは?」とマスコミ各社は報じた。
だが、永田町で密かな話題となったのは会合中に起きた些細なハプニングの方だった。「A、A、A。なんとなく政局という顔ぶれだから多くの新聞記者がいるが、期待が外れる」。麻生がいつもの麻生節を披露していたその時、背後の壁に貼られていた、菅の顔写真を配した党のポスターの上部が剥がれ落ち、菅の顔を覆い隠すようにだらりと垂れ下がったのだ。
「本当に縁起が悪い」「政権の現状を象徴するようだ」。会合後、出席者の間でこんなヒソヒソ話が交わされた。
一時持ち直した内閣支持率は、5月に入り再び大きく下落。報道各社の世論調査では軒並み、不支持が支持を大きく上回った。戦略のない場当たり的な新型コロナ対策が露わになり、5月14日には緊急事態宣言の政府案が分科会の専門家らの突き上げにより覆るなど失態を次々と演じている。
だが、縁起云々にとどまらず、自民党の歴史上最悪の出来事を想起したベテラン議員もいた。2009年夏、野党に転落した悪夢の衆院選だ。
前年、早期解散を期待されて首相に就任した麻生は、リーマンショックもあり、ズルズルと衆院選を先延ばしする。当時、選対副委員長として麻生側近だった菅は解散先送りを強く進言し続けた。麻生は解散しないまま翌年7月の東京都議選を迎え敗北。その責任を取って選対委員長を辞任した古賀誠に代わり、菅が事実上の選対責任者として衆院選を取り仕切る。結果、空前の惨敗を喫した。
麻生の背後で菅のポスターが剥がれ落ちたことは、自民党を野党に転落させたA級戦犯が麻生・菅コンビだったことを思い起こさせた。さらに、菅はこのところ政権運営の拠り所を幹事長の二階から副総理の麻生にシフトさせつつある。だが、その2人の組み合わせこそが「縁起が悪い」のだ。
しかも、今の状況は当時と酷似する。菅が期待された昨秋解散を見送り、衆院選は今秋の任期満了近くに行われるのはほぼ確実。直前に東京都議選が控えていることも09年と同じだ。ベテラン議員は「野党に支持が集まっていないので、さすがに政権交代は起きないだろうが、あまりにも状況が似ている」と不安げに語る。
ここから先は
文藝春秋digital
月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に配信。月額900円。(「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了します。今後は、新規登録なら「…