丸の内コンフィデンシャル〈財界インサイドレポート〉
日本の経済の中心地、東京・丸の内。敏腕経済記者たちが“マル秘”財界情報を覆面で執筆する。
★野村HDのトップ交代
国内最大手の証券グループ野村ホールディングス(HD)の新CEOに奥田健太郎副社長が2020年4月1日付で就任することが決まった。永井浩二現CEOは代表権のない会長に退く。
近年、野村HDのトップはスキャンダルが引き金になって引責辞任するパターンが多かった。7年8カ月ぶりの今回のバトンタッチは「次期社長争いで敗れた、野村證券社長の森田敏夫氏の方が適任者だった。金融関係者の間では“奥田WHO?”の声が上がった」(金融筋)という。
奥田氏は投資銀行部門が長く、17年、企業のM&A助言業務で野村HDが6年ぶりに首位を奪還した際の立役者だが、次期CEO争いでは森田氏が先行するとされた。森田氏は17年4月1日から野村證券の社長。永井氏と森田氏は労働組合の委員長を務めるなど、顔を見ただけで相手の考えがわかる「ツーカーの間柄」だったという。
トップ交代の舞台裏には永井氏に社内外から経営責任を問う声が上がっていたことが関係する。19年3月期の連結決算で最終損益は、リーマン・ショック直後以来、10年ぶりの赤字転落。5月には東京証券取引所の市場再編を巡る議論の内容を社員が外部に漏らしたとして、金融庁から業務改善命令を受けた。6月の株主総会で永井氏の取締役選任案への賛成率は61.7%(前年は96.0%)。永井氏のCEO退任は半ば“引責辞任”に近いとされる。
12月2日、奥田氏は永井氏と一緒に記者会見し、「証券業界はIT企業とも競合となっており、危機感は強い」と強調。「他社とのM&Aについては柔軟に対応していく」との発言が注目された。
奥田新CEOには、まずは傘下の野村證券の社長を誰にするのか。ライバルだった森田氏の処遇をどうするのか。人事で、奥田色を出せるのかに関心が集まっている。
★「家具屋姫」続投の理由
極度の経営不振が続く大塚家具(大塚久美子社長)にヤマダ電機(三嶋恒夫社長)が救いの手を差し伸べた。まずは増資の引き受けで約44億円を資金注入、子会社化によって全面支援する構えだ。
15年3月に創業者で実父の勝久氏を追放し内紛に勝利した久美子氏だったが、その後は販売不振で赤字続き。垂れ流し額は180億円近くで、資金ショートの危機だ。19年3月には中国系ファンドなどを頼ったが、増資調達額は計画を未達、新たなスポンサーが必要な状況だった。
かたやヤマダ電機は目下、住宅事業の強化に躍起。家を丸ごと扱えば主力の家電販売との相乗効果が見込めるとの計算だ。11年に老舗ビルダーのエス・バイ・エル(現ヤマダホームズ)を子会社化し本格参入。さらに間口を広げているが、赤字続きの現状だ。そこで家具販売も取り込むテコ入れ策に出たわけだ。
今回の資本提携での注目は久美子氏の社長続投をヤマダ側が認めた点にある。創業者の山田昇会長はかねて厳しい経営姿勢で知られるだけに久美子氏が残るのは意外だ。
「辞めたいんだけどね」。関係者によれば、久美子氏は直前、辞意を漏らしていたという。とすると続投はヤマダ側の要請の可能性がある。久美子氏が社長職にしがみついたとする多くの見方とは逆だ。
すでにボロボロの大塚家具にあえて価値を見出すとすれば、それは何か。優秀な社員や産地との良好な関係は勝久氏が追放後に設立した「匠大塚」に流れたとされる。となると、大塚家具に残された価値は「家具屋姫」こと久美子氏がトップを務める会社という全国的な知名度しかない。そんな広告塔を使えるうちは使おうと、今回、ヤマダ側は判断したのかもしれない。
加えて、こんな穿った見方もある。山田氏が亡き長女の姿を久美子氏に重ねているとするものだ。02年暮れ、ヤマダ電機で社長室長だった長女は帰宅時、本社前で交通事故死した。山田氏は長男・傑氏(16年6月まで取締役)よりも長女に後継者としての期待を寄せていたとされる。
低価格戦略で成長したヤマダ電機と会員制の高級家具販売が売りだった大塚家具との相性は決して良くはない。久美子氏続投の真相はさておき、前途多難なのは確かだ。
ここから先は、有料コンテンツになります。今後、定期購読していただいた方限定のイベントなども予定しています。
ここから先は
文藝春秋digital
月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に配信。月額900円。(「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了します。今後は、新規登録なら「…