「冬コロナ」対策、最後は「マスク」「手洗い」「換気」しかない
年末年始を前に、日本人が試されている。/文・和田耕治(国際医療福祉大学大学院教授)
<この記事のポイント>
▶︎冬が近づくにつれ感染者数が増えたもっとも重要な要因は「人と人の距離が近くなった」こと
▶︎コロナの症状が出る前の2日間、出た後の2日間は「魔の4日間」である
▶︎飛沫を気にするのであれば、「湿度」よりも「換気」を重要視したほうがよい
感染者が急増した時、最も大切なことは?
和田氏
新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかかりません。
感染者が急増してきたとき、もっとも大切なことは、早めに減らそうという意識を、どれだけ私たちが強く持てるか、ということです。感染防止対策の効果があらわれるまでは約3週間かかります。つまり、現在の努力次第で、大晦日やお正月という特別な時間を、安心して過ごせるかどうかが決まるのです。
ところが、過去2回の流行を乗り越えたためか、今回、政治の声も弱く、国民の皆さんも“コロナ疲れ”なのか、危機感が少し足りないように感じます。日本医師会の中川俊男会長が勤労感謝の日の連休を前に、「がまんの三連休」にと要請したにもかかわらず、人出が増えた観光地もあるという報道もありました。
医療崩壊を起こさず、そのうえで経済を回しながら、感染の拡大を抑え込むためにはどうすればいいのでしょうか。私たちは改めて真剣に取り組んでいくべきではないでしょうか。
新型コロナの流行が続くなか、私たちは初めて年末年始の時期を迎えます。ここを無事に乗り越えれば、コロナ下の状況を、まる1年経験したこととなり、その蓄積は今後の対策に大いに役立つでしょう。
今後のためにも、これまでに得た知見を改めて振りかえり、感染を防ぐためには、どう行動するべきかを解説していきたいと思います。
国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授の和田耕治氏は、感染状況の分析、拡大予防法の啓発などで幅広く活躍している。2020年2月に横浜港へ入港したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」船内で、新型コロナウイルス集団感染対策にあたった経験を持ち、厚生労働省クラスター対策班(現・疫学データ班)メンバーとして政府の対策作りにも関わった。
気温低下が原因なのか
そもそもなぜ、冬が近づくにつれ感染者数が増えてきたのか。
「空気が乾燥しているため、ウイルスを含む飛沫が、長く空気中に浮遊するから」、「気温が下がると人間の抵抗力が低下するから」など、いろいろな説が唱えられています。
しかし、もっとも重要な要因は、「人と人の距離が近くなった」からではないかと、私は考えています。寒いので室内で過ごすことが増えたため、周囲の人との距離が近くなった。それが今回の感染拡大の一因ではないでしょうか。
人と人の距離が短くなり、接触頻度が高まることによって、感染が拡大していく。これは感染症の基本中の基本です。
接触頻度という点については、インフルエンザの感染状況が参考になります。例年、日本では、12月ごろまで、インフルエンザ感染の中心は子供となっています。元々子供はインフルエンザに対する抗体が十分ではなく、学校という同じ空間で長時間過ごすので、感染が広まりやすい。ところが年が明けると、感染者の中心は大人や高齢者に移るのです。これには年末年始の帰省が大きく関係しています。多くの人たちが、すし詰めの新幹線や飛行機に乗って、郷里に帰っていく。子、親、祖父母の世代が一緒に過ごす時間が増えることで、感染の年代が広がっていくわけです。
他方、タイやベトナムといった暑い国では、気温と湿度の高い雨期にインフルエンザが流行していますが、これは雨期には室内に人が集まりやすいためと考えられています。つまり感染症の流行には、それぞれの国の文化・慣習が関係していると言えるのです。
その意味でも今年の冬は特別です。この季節は忘年会、帰省、初詣といった、日本の文化・慣習に根差したイベントが多くあります。それらが原因で感染が拡大し、医療崩壊の危機になれば、来年、再来年の年末年始の過ごし方を大幅に変えなければいけなくなるかもしれません。
(写真はイメージ)
「魔の4日間」を意識せよ
では、この冬のコロナ対策はどうすればいいのでしょうか。
まず、みなさんにお伝えしたいのは、少しでも「体調がおかしい」と感じたら、外出するのを控えてほしいということです。
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