遠藤周作 心の奥底にあったもの 遠藤龍之介 100周年記念企画「100年の100人」
2020年6月、遠藤周作の未発表小説『影に対して』が発見された。1996年に73歳で亡くなるまで、本人があえて発表しなかった作品。世に出すべきか判断を託されたのは、長男の遠藤龍之介氏だった。/文・遠藤龍之介(フジテレビ副会長)
遠藤氏
なぜ父は1960年代に執筆した作品を発表しなかったのか。おそらく『影に対して』が私小説であることと無関係ではないでしょう。
主人公は、小説家になる夢をあきらめた男。彼は幼いころ離別した亡き母の足跡をたどり、バイオリン奏者だった母の芸術への情熱に触れます。「なんでもいいから、自分にしかできないことを見つけて頂戴」。母の言葉を胸に小説家を志したのに、ついぞ母の望む生き方はできなかった——。この主人公はあきらかに父であり、「母」は父の母親です。
父はこれまで幾度となく小説に母親を登場させてきましたが、『影に対して』には母親への憧憬がより濃厚に描かれています。これを世に出せば、父の心のいちばん奥にある部屋を開け放つことになる。けれども、本人の意思が確認できない以上、やはり公開すべきではないか。そう考え、最終的に出版を決めました。
遠藤周作
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