脂質異常症「『飲み合わせ』に気をつけよう」西村理明(東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科教授)
文・西村理明(東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科教授)
西村氏
LDLコレステロール値をいかに下げるか
脂質異常症とは、血液中の脂質であるLDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪の値が基準値から外れた状態を指します。
肝臓で作られるLDLコレステロールは、細胞やホルモンの原材料であり、生命維持に不可欠な成分です。しかし、増えすぎると血管の壁にたまって「動脈硬化」を起こします。動脈硬化が進むと、血管の内腔が狭くなったり、血管内に血栓という血の塊ができてしまう。それらが血の流れを止めてしまうと、狭心症や心筋梗塞、脳卒中を引き起こします。
LDLコレステロールが“悪玉”と呼ばれるのはこのためで、脂質異常症の治療では、LDLコレステロール値をいかに下げるかが最優先課題となります。
LDLコレステロールは食生活を見直し、運動習慣を取り入れることで改善に向かうこともありますが、それでも数値が下がらない場合は薬による治療を行います。
代表的な薬が「スタチン」です。スタチンには、肝臓でLDLコレステロールの生成を促す「HMG−CoA還元酵素」を阻害する作用があります。この作用により肝臓でのコレステロールの生成量が減ると、その分を補おうと、肝臓が血液中からLDLコレステロールを取り込みます。その結果、血液中のLDLコレステロールの値が下がるのです。
近年は、従来のスタチン製剤であるプラバスタチンやシンバスタチンと比べて効果が高い、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチンが処方される機会が増えました。実際の数値の改善具合をもとに、主治医とよく相談してご自身に合った薬を見つけてください。
スタチン製剤の副作用としては、胃の不快感や吐き気、便秘などの自覚症状が挙げられます。稀ではあるものの、特に注意すべきは、筋肉の細胞が損傷する「横紋筋融解症」です。横紋筋融解症は筋肉が融解や壊死を起こし、壊れた筋肉の成分が血液中に流出してしまう病態で、これらの物質が腎臓に詰まると急性腎不全を引き起こすことがあります。
横紋筋融解症が起きているかどうかは、血液中のCK(クレアチンキナーゼ)値を見ることで分かります。服用はCK値を確認しながら慎重に開始しますが、なかにはCK値が上昇しなくても、横紋筋融解症の自覚症状である、だるさや筋肉痛が出現することがある。これを「スタチン不耐」と呼びます。
グレープフルーツで副作用が
スタチン不耐の場合、継続服用が困難となるので、別の薬に切り替えることになります。代表的な薬は「小腸コレステロールトランスポーター阻害薬」(エゼチミブ)。これは小腸でのコレステロールの吸収を抑え、血液中にコレステロールが移行するのを抑えます。スタチンほど強い効果はありませんが、横紋筋融解症を心配せずに使える薬です。
最近は、「PCSK9阻害薬」という注射薬も登場しました。肝臓の表面にあるLDL受容体の数を増やすことで、血液中のLDLコレステロール値を下げる効果を発揮します。効果はとても強い薬なのですが、2週間もしくは4週間に1回の注射が必要なのに、加えて薬価が高く3割負担でも1回約8000~1万5000円はすることが難点でしょうか。
ここから先は
文藝春秋digital
月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に配信。月額900円。(「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了します。今後は、新規登録なら「…