第82回文藝春秋読者賞発表
受賞作
コロナ死「さよなら」なき別れ(11、12月号)
柳田邦男(やなぎだくにお)
権力論―日本学術会議問題の本質(12月号)
佐藤優(さとうまさる)
第82回読者賞は昨年12月7日、選考顧問の片山杜秀氏、本郷和人氏、三浦瑠麗氏の3名と、弊社社長・中部嘉人が、読者の皆さまの投票結果を踏まえて選考にあたり、右記のように決定しました。
柳田邦男氏「コロナ死『さよなら』なき別れ」は、看取りのできない新型コロナによる死の現状を描いたルポで、「コロナ死のルポであると同時に、それを超えたものを感じさせる」と、高い評価を得ました。
佐藤優氏の「権力論」は日本学術会議の任命拒否問題を分析したもので、「問題の核心をついている」「政権側の視点を明快に分析」と高く評価されました。
ご投票いただいた読者の皆さまに感謝いたします。
30名の方に、それぞれ現金1万円をお贈りいたします。
このほか100名の方に図書カード(3000円分)をお贈りいたします。
なお、氏名の発表は図書カードの発送をもって代えさせていただきます。
【受賞の言葉】
佐藤優(作家・元外務省主任分析官)
権力の内在的論理
不謹慎な言い方であるが、菅政権は観察していて実に興味深い。安倍晋三首相が体調不良で突然、辞意表明をすることがなかったならば、菅義偉氏が首相になることはなかった。菅氏は「偶然の宰相」である。特に実現したい大きな政治目標があるわけでもない。となると権力自体の自己肥大が起きる。そのことが日本学術会議の人事問題で露呈した。菅首相、官邸官僚、情報官僚、学術会議幹部、革命政党(日本共産党)などが、それぞれの組織(部分権力)の内在的論理に基づいて合理的に行動する。その結果がグロテスクな不条理になる。この状況を抜け出すためには、各人が少しだけリスクをとって、ポジショントークを抑え、対話することだ。加藤陽子氏(東京大学大学院教授)が『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(新潮文庫)で解き明かしたような過ちを繰り返してはならない。
【受賞の言葉】
柳田邦男(ノンフィクション作家)
文藝春秋読者賞を受賞して
現代は社会現象を統計的な数値で捉える傾向が強いが、そういうマクロな視点だけでは本質的な問題が見えにくくなるおそれがあります。
コロナ問題にしても、毎日の新規感染者数や重症者数の急増傾向を統計グラフで見ているだけでは、漠然と不安を感じるだけで過ごしてしまいがちです。また、コロナ感染拡大は人の移動によって生じるにもかかわらず、政府が「Go Toトラベル」は拡大要因である証拠はないとまともな根拠もなく言い切ると、一般人はその統計的魔術に騙されてしまいます。
私が「『さよなら』なき別れ」という死別ケアの専門的な視点からコロナ死の現実をリアルな姿で捉えようとした今回のレポートは、人々にコロナ禍の問題を、わが身の「生と死」の異常事態として考えてほしいというねらいによるものでした。多くの読者に支持されてありがたいです。
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