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ユーモアという政治技術|森下伸也

文・森下伸也(関西大学名誉教授・日本笑い学会会長)

ユーモアは取り扱いがむずかしい。笑わそうとして、白けられたり、知らんぷりされたり、愛想笑いされたり、失笑されたり、場合によっては怒りを買ったりする。

笑わされる側もむずかしい。その言葉、冗談のつもり? どういう意味? 寒いんだけど? それで笑えってかい? などなど。冗談というのは、発し手も受け手も、相手の反応を読みにくいものだ。

冗談の成否は、冗談のネタや発し方、発し手・受け手双方のユーモア能力、そして発せられるときのTPOと、意外に多くの要因にかかっている。ユーモアの達人はそれらを一瞬にして的確に見抜き、当意即妙の冗談を発して座をわかす。一方、場違いかつ陳腐なネタを、しかも得意げに語って、瞬間、場を凍てつかせるのが、下手の横好き。

失礼ながら、「ガースー」こと菅現首相や、「話の長い」女性たちよりずっと話の長い森元首相は、下手の横好きの典型と見える。権力者というものは物言えぬ部下たちのお愛想笑いを自分の実力と勘違いし、冗談が不発に終わっても痛い目にあうことがない。その結果2人は、知らず知らず次元の低い、また差別含みのネタを口にして、顰蹙を買ってしまったのだ。

残念なことに、おそらく日本の政治家はたいていが彼らと同類なのだが、これと好対照なのが、米国の大統領たちの達者なユーモアである。

ウォーターゲート事件の結果たなぼたで大統領に昇格した第38代フォード大統領が、庶民派を自己アピールした名文句。「私はリンカーンじゃなくてフォードです」

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