プレイリスト『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』下巻
スポティファイ、音楽プレイリスト
村上春樹さんの小説『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の、音楽プレイリストです。
小説に出てきた音楽家の名前、あるいは曲を、出てきた順番でまとめたプレイリストです。音楽家の名前だけで曲名が出てきていない場合は、私の好みの曲(プレイリストの流れにも合っていると思える曲)を選んでいます。音楽家名が複数回登場する場合は、入れたり入れなかったりしています。(プレイリストの流れを見ながらの判断。)
プレイリストでの音楽の流れ、ということでいうと、松田聖子からのレゲエ(ボブ・マーリィ)とか、かなりいい。
また、小説内で言及されている音楽がどんな音楽なのかを知っているほうが楽しいのは、たとえば、「ビヤホールではどういうわけかブルックナーのシンフォニーがかかっていた。何番のシンフォニーなのかはわからなかったが、ブルックナーのシンフォニーの番号なんてまず誰にもわからない。とにかくビアホールでブルックナーがかかっているなんてはじめてだ。」のところも、こういうふうな曲がビアホールでかかっているのか、と想像すると、とても楽しい。
上巻のプレイリスト約2時間でしたが、下巻は5時間42分という、大ボリュームとなりました・・・。上巻では、あまり音楽が出てこないなと思いながら読んでいましたが、上巻の途中からはプレイリストとして聴き応えがあるほどに出てきました。下巻も、最初のほうはあまり音楽が出てこないなと思いながら読んでいましたが、途中から怒涛のごとく出てきました。しかしながら、まいどこの人の音楽知識には驚嘆です。いろんな音楽に目(耳か)を開かせてくれます。そして、ボブ・ディランって、すごい影響を与えているんですね。いろいろな人に。ノーベル賞までもらってるし。果たして村上春樹さんがノーベル賞を受賞する日はくるのか?
今回の音楽的な自分の好みの発見は、ウィンナ・ワルツっていいな、ということと、『ブランデンブルク・コンツェルト』をこれから聴いてみようかな、ということでした。
『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』
下巻
引用ページ数は、新潮文庫版(旧表紙)
p.52
清潔で静かなバーと、ナッツの入ったボウルと、低い音で流れるMJQの『ヴァンドーム』、そしてダブルのオン・ザ・ロックだ。
p.164
私が思いだせるのはスカイラインに乗ってデュラン・デュランをカー・ステレオで聴いていた若い男女の姿だけだった。
スカイラインもデュラン・デュランも銀のブレスレットもシャフリングもダークブルーのツイードのスーツも、何かしらずっと遠い昔に見た夢であるように思えた。
p.171
ジミ・ヘンドリックスやクリームやビートルズやオーティス・レディングや、そんな時代の頃のことだ。私は口笛でピーター・アンド・ゴードンの『アイ・ゴートゥー・ピーセズ』のはじめの何小節かを吹いてみた。良い唄だ。甘くて切ない。デュラン・デュランなんかよりずっと良い。でも私がそう感じるのは私が年をとってしまったせいなのかもしれない。
p.198
タクシーの運転手は髪の長い若い男で、助手席に置いた大きなステレオ式のラジオ・カセットでポリスの音楽を流していた。
p.199
「会社はさ、こういうのかけちゃいけないって言うんだ。ラジオで歌謡番組流してろってさ。でも冗談じゃないよな、そんなの。マッチだとか松田聖子なんて下らなくって聴いてらんないよ。ポリスが最高だね。一日聴いてても飽きないね。レゲエもいいけどさ。お客さん、レゲエはどう?」
「悪くない」と私は言った。
ポリスのテープが終ると運転手はボブ・マーリーのライヴを聴かせてくれた。
p.200
ジム・モリソンが死んで十年以上になるが、ドアーズの音楽を流しながら走っているタクシーにめぐりあったことは一度もない。
デパートの拡声装置からはレーモン・ルフェーブル・オーケストラが流れ、ビアホールではポルカがかかり、歳末の商店街ではベンチャーズのクリスマス・ソングが聴こえるものなのだ。
p.237
ビヤホールではどういうわけかブルックナーのシンフォニーがかかっていた。何番のシンフォニーなのかはわからなかったが、ブルックナーのシンフォニーの番号なんてまず誰にもわからない。とにかくビアホールでブルックナーがかかっているなんてはじめてだ。
やがてブルックナーの長いシンフォニーが終り、ラヴェルの「ボレロ」に変った。奇妙なとりあわせだ。
p.242 (ツビン・メータ(Zubin Mehta)の指揮はスポティファイで見つけられず。)
それから私はレコード店に行って、カセット・テープを何本か買った。ジョニー・マティスのベスト・セレクションとツビン・メータの指揮するシェーンベルクの『浄夜』とケニー・バレルの『ストーミー・サンデイ』とデューク・エリントンの『ポピュラー・エリントン』とトレヴァー・ピノックの『ブランデンブルク・コンツェルト』と『ライク・ア・ローリング・ストーン』の入ったボブ・ディランのテープという雑多な組み合わせだったが、カリーナ 1800GTツインカムターボの中でいったいどんな音楽が聴きたくなるものなのか自分でも見当がつかなかったのだから仕方ない。実際にシートに腰を下ろして観ると実はジェームス・テイラーが聴きたかったということになるかもしれない。あるいはウィンナ・ワルツが聴きたくなるかもしれない。ポリスかもしれないし、デュラン・デュランかもしれない。それとも何も聴きたいとは思わないかもしれない。そんなことはわからないのだ。
私はボブ・ディランのテープをデッキにかけてパネルのスウィッチをひとつひとつためした。
p.243
J・D・サリンジャーとジョージ・ハリソンが好きだった十七歳の女の子が何年か後に革命活動家の子供を二人産んでそのまま行方不明になるなんて誰に予想できるだろう。
p.244
ボブ・ディランは『ポジティヴ・フォース・ストリート』を唄っていた。二十年経っても良い唄というのは良い唄なのだ。
p.244
「ハーモニカがスティーヴィー・ワンダーより下手だから?」
p.245
「古い音楽が好きなんです。ボブ・ディラン、ビートルズ、ドアーズ、バーズ、ジミ・ヘンドリックス――そんなの」
ディランは『メンフィス・ブルーズ・アゲイン』を唄っていた。
p.246
ボブ・ディランが『ライク・ア・ローリング・ストーン』を唄いはじめたので、私は革命について考えるのをやめ、ディランの唄にあわせてハミングした。我々はみんな年をとる。それは雨ふりと同じようにはっきりとしたことなのだ。
p.260
爪切りを買ってしまうと、私は車に戻り、『ブランデンブルク・コンツェルト』を聴きながら彼女を待った。
p.262
「『ブランデンブルク』ね?」と彼女は言った。
「好きなの?」
「ええ、大好きよ。いつも聴いてるわ。カール・リヒターのものがいちばん良いと思うけど、これはわりに新しい録音ね。えーと、誰かしら?」
「トレヴァー・ピノック」と私は言った。
「ピノックが好きなの?」
「いや、べつに」と私は言った。「目についたから買ったんだ。でも悪くないよ」
「パブロ・カザルスの『ブランデンブルク』は聴いたことある?」
「ない」
「あれは一度聴いてみるべきね。正統的とは言えないにしてもなかなか凄味があるわよ」
p.267
「ジュークボックスにベニー・グッドマンのレコードが入ってないのと同じよ」
p.275
私が選んだテープにはジャッキー・マクリーンとかマイルズ・デイヴィスとかウィントン・ケリーとか、その手の音楽が入っていた。私はピツァが焼けるまで、『バッグズ・クルーヴ』とか『飾りのついた四輪馬車』とかを聴きながら一人でウィスキーを飲んだ。
「ポリス、デュラン・デュラン、なんでも聴く。みんなが聴かせてくれるんだ」
p.278
スピーカーからはパット・ブーンの『アイル・ビー・ホーム』が流れていた。
彼女がパンティー・ストッキングを丸めるように脱いでいるところで曲はレイ・チャールズの『ジョージア・オン・マイ・マインド』にかわった。
p.280
我々は三回性交したあとでシャワーを浴び、ソファーの上で一緒に毛布にくるまってビング・クロスビーのレコードを聴いた。
私はビング・クロスビーの唄にあわせて『ダニー・ボーイ』を唄った。
彼女がもう一度『ダニー・ボーイ』をかけてくれたので、私はもう一度それにあわせて唄った。
p.286
『ダニー・ボーイ』
p.300
ボブ・ディランの曲が聴きたかったが、ディランの曲は残念ながらかかっていず、そのかわりにロジャー・ウィリアムズが『枯葉』を弾いていた。秋なのだ。
p.301 (フランク・チャックスフィールド・オーケストラの『ニューヨークの秋』は、スポティファイでは見つけられず。)
ロジャー・ウィリアムズの『枯葉』が終り、フランク・チャックスフィールド・オーケストラの『ニューヨークの秋』に変った。
次の曲はウディー・ハーマンの『アーリー・オータム』だった。
p.323
デューク・エリントンの音楽もよく晴れた十月の朝にぴたりとあっていた。もっともデューク・エリントンの音楽なら大みそかの南極基地にだってぴたりとあうかもしれない。
『ドゥー・ナッシン・ティル・ユー・ヒア・フロム・ミー』のユニークなローレンス・ブラウンのトロンボーン・ソロにあわせて口笛を吹きながら車を運転した。それからジョニー・ホッジスが『ソフィスティケーティテッド・レディー』のソロをとった。
p.340
ボブ・ディランは『風に吹かれて』を唄っていた。私はその唄を聴きながら、かたつむりや爪切りやすずきのバター・クリーム煮やシェーヴィング・クリームのことを考えてみた。世界はあらゆる形の啓示に充ちているのだ。
そして彼女はボブ・ディランの古い唄を聴き、雨ふりを想うのだ。
p.341
私は目を閉じて、その深い眠りに身をまかせた。ボブ・ディランは『激しい雨」を唄いつづけていた。
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